水晶発振子マイクロバランス装置(QCM)を用いた予備実験としてまず、Semenogelin(Sg)の精子運動抑制因子(SPMI)活性部分にエピトープを持つ抗Sgモノクローナル抗体(F11)を発振子に固定し、抗原であるSgと精子及び精子膜抽出物との競合的阻害を観察した。その結果、精子とSgを同時にチャンバーに添加する孝SgはF11抗体に結合せず、Sg単独では結合した。つまり、精子がSgとF11抗体の結合を阻害した。次に、結合の見られなかった精子+Sgに、通常膜抽出に用いるTriton X-100を添加すると、コントロール(Sgのみ)に比べて多い結合が見られた。これらから、Sgは精子膜上の何らかの成分と結合し、この複合体はTriton X-100により抽出可能であることが示唆された。また、発振子にSgを固定した場合に精子抽出物の添加で何らかの結合が見られた。しかしながら、発振子上に結合したタンパク質をSDS-PAGEにより分離したところ、多数のバンドが見られ、非特異的吸着を起こしているものと考えられた。現在のところブロッキング試薬の検討を行っているが良好な結果は得られていない。電子顕微鏡による免疫染色を用いた検討で、精子膜上にはSgは結合していないことも最近明らかになった。これらのデータから精子膜上にSgの受容体は存在しない可能性もあるが、除膜精子や、精子無力症患者の精子では精子内部構造にSgが結合しているような像も得られているので今後は精子膜タンパク質に限定せずに検索する必要があるものと考えられる。このように、Sg受容体の同定には至らなかったが、Sg及びSPMIによる精子運動抑制の作用機序について重要な示唆が得られた。
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