マウスにて加齢卵モデル(排卵後の卵の加齢:遅延受精モデル)を作成した。加齢卵は受精率の低下、受精後の異常発育が多いことが知られており、これまで我々はこの加齢卵で受精時のカルシウムオシレーションのパターンが変化することを報告した。その原因の一つに細胞内ATPが大きく関与すると仮定し、本研究では加齢にともなう細胞内ATPの変化について検討した。従来、細胞内ATP濃度の測定にはルシフェリン・ルシフェラーゼ法が用いられていたが、これは生細胞での測定が極めて困難な測定法であった。そこで細胞内ATPの変化をMagnesium-Greenにより間接的に評価することにより、生細胞での細胞内ATPのリアルタイムでの測定法を開発した。これにより細胞内カルシウム濃度とATP濃度を同時測定することが可能となった。この方法を用い、受精時のカルシウムオシレーションと細胞内ATP濃度の関係を検討したところ、マウス新鮮卵では受精直後(カルシウムオシレーション開始直後)から、細胞内ATP産生が起こることが明らかとなった。このATP産生の亢進は受精後60分以上も持続した。一方、加齢卵ではこの細胞内ATP産生は抑制されていた。この加齢卵での細胞内ATPの産生低下がカルシウムオシレーションのパターンを変化させ、直接あるいは間接的に胚発育異常を惹起していると推測された。今後、この細胞内ATP濃度測定法は、卵細胞の質の新しい評価法になりうると考えられる。また、将来的に卵細胞の質の改善をターゲットとした不妊治療の開発の一助になると考えられる。
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