初めに、今回習慣流産患者夫婦および健常者からDNAを抽出しゲノムを解析することは、東京大学ヒトゲノム倫理審査委員会で承認されている(承認番号633)。 原因不明習慣流産患者夫婦70組、妻のみ4人、そして対照として健常人100人から同意の上採血しDNAを抽出し、NK細胞受容体の一つKIR(Killer Cell Immunoglobulin-like Receptors)について、PCR-SSP(sequence-specific primers)法でtypingを行った。KIRにはAタイプとBタイプのハプロタイプが存在するが、習慣流産患者の夫ではBタイプの頻度が高かった。さらに活性型Natural Killer細胞(NK)受容体2DS2、及び連鎖不平衡の関係にある抑制型2DL2においてcontrolと習慣流産妻の間で2×2testにて有意差を認める(p=0.0239)ことが分かった。活性型の遺伝子の一つと、抑制型の遺伝子の一つが共に習慣流産患者に多い意義を分析するため、これら2つのKIR遺伝子と結合するHLA-Cに注目した。HLA-Cは胎盤に弱く発現しKIRのligandである。 HLA-CのtypingをPCR-microtitre plate hybridization(MPH)を用いて行った。HLA-Cはアミノ酸のposition77-80でC1とC2の2つのタイプに分類される。2DS2も2DL2も、共にC1タイプのHLA-Cがligandである。今回の検討では習慣流産患者もコントロールも、ともにC1タイプが95%を占め、有意差は認められなかった。 もう一つのNK細胞受容体としてCD94/NKG2を解析した。活性型のNKG2Cと抑制型のNKG2Aに着目、絨毛がHLA-Eを発現し、それがNKG2Aを介してNK細胞を抑制しているとの仮説を立てた。その結果、脱落膜NK細胞(CD56bright)における発現パターンは末梢血NK細胞と比べ著しく異なっており、NKG2A優位に発現していた。このことが胎児が母体から拒絶されない一つの理由である可能性がある。
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