当施設での体外受精・胚移植治療により得られた受精卵のうち、胚の質が悪く移植に適さないものや、治療周期に妊娠が成立したため廃棄の予定となる凍結余剰胚を患者夫婦の同意を得て検討対象とした。 これらの胚を受精後4〜5日にあたる時期まで体外培養し、桑実胚〜胚盤胞に達した時点でマイクロマニピュレータを使用して透明帯に小孔を形成した。そのまま12〜24時間培養を継続し、胚の一部が透明帯の小孔を通して突出してきたところで、マイクロマニピュレータを使用して突出した部分の細胞塊を切除生検した。生検は桑実胚〜胚盤胞に達したほとんどの胚で可能であり、解析対象としての細胞を得る生検方法として本法は有用であると考えられた。 生検した細胞塊をピペッティングにて分離し、1〜数細胞ずつスライドグラス上に、吉澤ら(1997)の方法を用いて固定した。4〜8細胞期の割球を用いた場合に比較して、桑実胚〜胚盤胞の細胞を用いた場合、それぞれの細胞の大きさが小さい分、操作中の細胞の損傷、紛失がやや増加したが、細胞を移動・操作する場合に用いるピペットの太さ等を工夫することにより、これらの損傷、紛失の率は低下が可能であった。 スライドグラス上に固定した核に対して、13番、18番、21番および性染色体に対するプローブを用いてFISHを施行した。FISH後のシグナルの検出率は、これまで4〜8細胞期の割球を用いて行った成績と同様高いものであった。桑実胚〜胚盤胞の細胞を用いた染色体の解析では、初期胚からの細胞を用いた場合よりmosaicismの率がやや上昇した。これは、解析可能な検体数の増加により、mosaicismがより正確に診断できたためと考えられる。桑実胚〜胚盤胞期の細胞を用いても胚の遺伝的解析は十分可能と考えられる結果であり、臨床的にも応用可能であると思われた。
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