臨床的に化学療法抵抗性で予後不良な疾患である、卵巣明細胞腺癌の抗癌剤耐性機序の解明と至適治療法の開発を目的に、培養株を対象に分子生物学的検討を行った。 1)4種の明細胞腺癌株(KK、RMG-1、OVSAYO、OVMANA)、4種の漿液性腺癌株(HRA、SHIN-3、KF、KOC-2S)を、約13000の遺伝子解析が可能なGene Chip (Affymetrix)を用いたDNAマイクロアレイ法により遺伝子発現を比較検討した。2)ヒト肝cDNAライブラリーからPCR法でGPX3のcDNAをスクリーニングし、GPX3発現ベクターを作成した。これをリン酸カルシウム共沈法によりHRA株に遺伝子導入し、シスプラチン、パクリタキセルに対する感受性をマイクロプレートリーダーを用いたXTTアッセイ法により検討した。 1)明細胞腺癌4株に共通してGPX3(過酸化脂質代謝・解毒酵素)をはじめとして8つの遺伝子の高発現が認められた。2)GPX3高発現株(HRA/GPX)を樹立した。HRA/GPXはコントロールに比べてパクリタキセルに低感受性を示した(p<0.01)。シスプラチン感受性には差がなかった。 DNAマイクロアレイ法により、明細胞腺癌に特異的に発現のみられる遺伝子のあることが判明した。とくにGPX3は解毒機構に関与する遺伝子であり、遺伝子導入法によりこれを高発現させることでパクリタキセル低感受性となったことから、明細胞腺癌の抗癌剤耐性の機序のひとつにGPX3が関与することが示唆された。
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