抗癌剤に抵抗性を示し、予後不良な疾患である卵巣明細胞癌の抗癌剤耐性機序を明らかにし、効果的な治療法を開発するため、分子生物学的検討を行った。卵巣明細胞癌培養細胞株4種(KK、OVMANA、OVSAYO、RMG-I)、卵巣漿液性癌培養細胞株4種(KF、HRA、KOC-2S、SHIN-3)を対象に、DNAマイクロアレイ法を用いて遺伝子発現プロファイルを比較し、明細胞癌株で高発現がみられた8つの遺伝子の内、GPX3に注目し、その発現をリアルタイムRT-PCR法により検討した。漿液性癌4株ではGPX3の発現はほとんどみられなかったのに対し、明細胞癌4株ではいずれもGPX3の高発現が認められた。ヒト肝cDNAライブラリーからPCR法によりスクリーニングしたGPX3のcDNAを用いて、GPX3発現ベクターを作成した。GPX3低発現卵巣癌細胞株3株(HRA、KOC-2S、SHIN-3)にリン酸カルシウム共沈法によりGPX3発現ベクターを遺伝子導入し、GPX3高発現株を樹立した。GPX3高発現株とコントロール株のin vitroにおける細胞増殖を比較したところ、いずれも差はみられなかった。卵巣癌治療に広く用いられている抗癌剤であるシスプラチンおよびパクリタキセルに対する感受性を、マイクロプレートリーダーを用いたXTTアッセイ法により検討した。その結果、GPX3高発現株の1つであるSHIN-3/GPX3はコントロールに比べ、シスプラチンに対して3倍以上の耐性を示した。本研究により卵巣明細胞癌ではGPX3の高発現がみられること、GPX3を遺伝子導入し高発現させた卵巣癌細胞は抗癌剤耐性となったことから、卵巣明細胞癌の抗癌剤耐性機序のひとつとしてGPX3の関与が示され、これを標的とした卵巣明細胞癌治療の可能性が示唆された。
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