母体血漿中胎児DNA濃度が母児境界の絨毛細胞の病態変化に伴って変化すると考え、絨毛の異常によって起こると考えられる妊娠中毒症、癒着胎盤の妊婦血漿中で、胎児DNA濃度を測定した。その結果、胎児DNA濃度はこれらの症例で有意に高値を示すことが分かり、母体血中胎児DNAが絨毛細胞の傷害の程度を評価する指標になると考えられた。さらに、妊娠悪阻の症例においても胎児DNA濃度は上昇していたことから、妊娠悪阻の病態に、母体の免疫寛容の成立過程での絨毛細胞傷害が関与している可能性があると考えられた。 これらの所見から母体血漿中胎児DNAは母児境界の最前列に位置する絨毛細胞の病態を反映していることになる。しかし、このDNAは絨毛細胞が傷害され、アポトーシスなどによって壊された結果、母体循環中にでてきたものであり、その時点で起こっている変化の結果と考えられる。そこで、母体血漿中に胎盤に由来するmRNAが浮遊していてそれを検出できれば絨毛の病態変化をより鋭敏に検出できる可能性が高いと考え、以下の点について研究を行った。 1.母体血漿中から浮遊のmRNAを分離し、安定した血漿中mRNAの定量的解析法を確立する。 2.胎盤で選択的に発現していると考えられるHLA-Gの遺伝子発現を定量化する。 3.正常妊婦と胎盤機能異常と関連する妊娠中毒症でHLA-G mRNA発現の差について検討を行う。 4.妊娠中期血漿を用いた中毒症発症予知の可能性についての検討を行う。 今年度は1の方法は確立した。しかし、2のHLA-Gの遺伝子発現はその発現量が少なく、検出には不向きであると考えられた。4の検討では、PAI-1、Inhibin Aの発現が中毒症で高いことは確認したが、有意差を確認するには至っていない。
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