研究概要 |
妊娠6週から40週の正常妊婦末梢血をEDTA加に採血し、3000rpmにて2回遠沈後の血漿成分を-20℃で凍結保存した。血漿1.6mlにTrizol-Lsを加え、よく混和した後、水層を分取し、それに70%エタノールを等量加えてQIAamp MiniElute Columnに吸着させた後、20μl中にRNAを溶出した。mRNAは逆転写後、TaqMan PCRで各遺伝子発現量を定量化した。血漿中βhCG,hPLの蛋白濃度はRIA固相法、ラテックス凝集免疫法で測定した。その結果、母体血漿中βhCG遺伝子発現量は妊娠6-15週の全例で定量できた。妊娠22週以降、βhCG遺伝子発現は15/53(28.3%)で検出感度以下であり、検出できた症例もその濃度は低かった。母体血漿中βhCG遺伝子発現量はβhCG蛋白濃度と正の相関(r=0.840,p<0.001)を示した。また、その濃度はβhCG蛋白濃度と同様、妊娠10週頃ピークを示し、妊娠22週以降は低値であった。また、母体血漿中hPL遺伝子発現量も全例で定量することができ、遺伝子発現量と蛋白濃度は正の相関(r=0.739,p<0.001)を示した。さらに、hPL遺伝子は分娩翌日には検出できなかった。 胎盤由来と考えられるmRNAとしてHLA-G遺伝子に着目していたが、至適なプライマー・プローブの作成ができなかったために、βhCG・hPLを標的とした。胎盤で選択的に遺伝子発現しているβhCG、hPLを標的とし、母体血漿中で胎盤のmRNAの発現量が評価できることを確認した。母体血漿中βhCG、hPL遺伝子発現量が母体血漿中蛋白濃度と相関を示したことは、(1)母体血漿中のmRNAが比較的安定した状態で血漿中を循環していること、(2)母体血漿中の様々な他のmRNAを定量することで胎盤の生化学的変化を直接評価可能なことを示唆している。以上のことから、妊娠中毒症などの胎盤が病態形成に主要な役割を果たしている疾患の無侵襲な病態評価法として、母体血漿中mRNAの定量が有用であると考えられた。
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