遺伝子・たんぱく質データベースを検索した内容をもとに、統合的にカルシウム出入りに関わるたんぱく質の相互作用についてシュミレーションを行った。 内耳組織におけるカルシウムの出入動態について研究した。細胞内にカルシウムを流入させるための機構として、機械的受容体カルシウムチャネル、電位依存的カルシウムチャネル、細胞内カルシウムストアからの放出の3つの経路があることが明らかとなった。それぞれ、有毛の動き、細胞の活動電位、イノシトール3燐酸の放出がトリガーとなって生じる。有毛の動きが機械的受容体カルシウムチャネルを開き、生じた活動電位がさらにカルシウム流入を許し、細胞膜から放出されたイノシトール3燐酸が細胞内滑面小胞体の受容体を介してさらにカルシウムを放出させる、一連のポジティーブ・フィードバックが働いていた。 細胞からのカルシウム排出は、受動的なカルシウム・ナトリウム交換ポンプではまかないきれず、ATPを消費して排出する能動的なカルシウムポンプが必須である。細胞内カルシウム濃度の上昇は細胞の機能には不可欠であるが、予想外の大量流入や長期のカルシウムの細胞内滞在は、カルシウムinducedアポトーシスを惹起する。これにはミトコンドリアを介した経路が考えられる。ミトコンドリア呼吸鎖の障害からチトクロームcが放出され、カスパーゼ8が活性化される。カルシウムポンプはいくつかのサブタイプがあり、組織細胞特異的に発現している。サブタイプによってカルシウム排出能が異なることが明らかになっており、カルシウム排出量に応じて各細胞に分布するサブタイプが異なると推測される。内耳においては有毛細胞や血管条などカルシウム出入りが盛んな組織では、カルシウムポンプの機能不全からカルシウムが細胞内に蓄積しやすく、内耳障害を惹起しやすいと推測される。
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