研究概要 |
1)滲出性中耳炎の病態ならびにその遷延化の研究のため、滲出性中耳炎患児より中耳貯留液を採取し、種々のサイトカインやケモカインの測定を行い、TGF-β、IFN-γ、IL-5、IL-8などを検出した。その測定量は、アレルギー性鼻炎を伴う症例や、感染性炎症を伴う症例、さらには遷延化している症例において、それぞれ異なる傾向を示した。 2)滲出性中耳炎の病態の解明、薬物療法の権立を目的として、各種薬剤(抗ヒスタミン薬、マクロライド系抗生物質など)の薬理学的効果を検討した。鼻咽腔や耳管・中耳粘膜上皮のToll-like receptor(TLR)の発現について、RT-PCRやNorthern blottingにより検討し、TLR-2,TLR-4などの発現を証明した。さらに、in vitroで、これらの上皮細胞を培養し、TLRのリガンドであるlipoproteinやlipopolysaccharide(LPS)で刺激した際の、サイトカインならびにケモカインの産生を検討し、各種薬剤の影響につき、細胞内シグナル伝達機構の観点から、実験を行った。その結果、第2世代の抗ヒスタミン薬が臨床用量において容量依存的に、上皮細胞からのIL-8の産生を抑制し、そのメカニズムはNF-κBの抑制によるものであることを証明した。 3)滲出性中耳炎の病態形成や遷延化の原因である耳管や中耳腔の細菌感染に対する免疫防御機構の賦活を日的として、有望なワクチン療法(経口・経鼻投与)を開発するため、卵白アルブミンに特異的なT細胞受容体(TCR)を遺伝子導入したマウス(OVA-Tgマウス)を用いて、経鼻感作による耳管・中耳粘膜の抗原特異的な粘膜免疫応答(分泌型IgA)の賦活を試みた。その結果、粘膜アジュバンドなしでも、抗原の点鼻投与により、耳管・中耳腔洗浄液に抗原特異的なIgA反応(特異的IgA抗体産生の誘導、抗原特異的抗体産生B細胞の有意な検出)が誘導されることが判明した。これらの結果は、中耳炎予防におけるワクチン療法の確立において重要な基礎的な研究成果であり、局所における抗原特異的T細胞の分化・増殖が鍵であることを示唆しており、鼻咽腔からの抗原投与が有望なワクチン療法になりうることが証明された。
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