耳下腺多型腺腫は、耳下腺に発生する腫瘍の中で最も頻度が高く、その臨床的重要性はきわめて大きい。病理学的には良性腫瘍の性状を示すが、高い再発傾向と、10%程度では悪性転化して様々な上皮性・間葉系悪性腫瘍の母体となることが報告されている典型的な前癌病変である。この耳下腺多型腺腫にはしばしば染色体欠失が伴うことが形態的な研究で報告されており、比較的高頻度に見られる染色体領域として8番、12番染色体が報告されている。こうした前癌病変や癌における染色体の異常からは、しばしばその発症や病態の解明に重要な遺伝子が発見されることが白血病などの研究で経験されており、我々はこうした染色体変異を、ゲノムデータ上の遺伝子情報に置き換えるためにヘテロ接合性の消失(LOH)の実験を行った。今まで、我々の研究施設で蓄積されてきた耳下腺多型腺腫のサンプルからDNAを抽出し、LOH領域について検討すると、3番、6番、10番、12番、13番、17番染色体について高い頻度で染色体の欠失が確認できた。このデータについては、近い将来に論文化による結果の公表を予定している。
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