喉頭の代表的な機能には発声、呼吸、嚥下機能が挙げられる。喉頭運動は、直接的には延髄疑核に存在する運動神経細胞から迷走神経を介して制御されているが、周辺臓器との複雑な協調運動である発声、呼吸、嚥下運動を遂行するためには疑核には上位中枢からの複雑な入力があることが示唆されている。 疑核は吻尾方向に長くかつ細胞密度が疎な神経核であることと、延髄の腹側に位置するという解剖学的な特殊性から、選択的に神経トレーサーを疑核のみに注入することはきわめて困難であった。このため疑核への上位中枢からの投射経路を明確にすることは喉頭研究における未解決の課題であった。近年、神経親和性を有し、シナプスを越えて感染を起こすヘルペスウイルスを神経トレーサーとして利用する手技が確立された。ウイルスを神経トレーサーとして用いた研究は少数の報告があるのみで、喉頭に関しては未だ体系的な報告がない。 本研究では、疑核運動神経細胞へ投射する上位中枢の局在を、ヘルペスウイルスを神経トレーサーとして使用する手法によって解明することを目的とした。 マウス輪状甲状筋および甲状披裂筋支配細胞にヘルペスウイルスを注入し、一定の生存期間の後に灌流固定を行い、全脳を摘出、凍結連続切片を作製し、抗ヘルペスウイルス抗体を用いた免疫組織化学法を施行した。再現性の高い標識結果を得ることが可能であった。これらの結果から、疑核への上位中枢からの投射を神経解剖学的に解明した。標識された神経核は輪状甲状筋注入群では、疑核後核、網様核、孤束核、最後野、傍三叉神経核、前庭神経核であり、甲状披裂筋注入群ではこれらに加え、蝸牛神経核も標識された。これらの神経核は両側性に標識され、疑核への投射は両側性であることが確認された。
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