放射線治療は、頭頚部領域における悪性腫瘍に対する治療において重要な役割を果たしている。しかしながら放射線照射後で手術が必要となる場合において、放射線による組織変化により術後の創傷治癒不全が問題となってくる。皮膚潰瘍動物モデルを用いた実験において、各種成長因子が皮膚粘膜創傷治癒を効率良く促進し、瘢痕形成を軽減することが知られており、創傷治癒過程における炎症期、肉芽期、再構築期の各過程の細胞の挙動と細胞成長因子の作用が解明されてきている。 しかしこれらの成長因子が有効性を示すには、作用させたい部位に有効濃度を保ったまま長期間成長因子が存在しなければならない。標的部位に成長因子遺伝子導入ベクターを1回のみ注入することで、標的部位にのみ高濃度で長期間にわたり成長因子を発現させることが可能であるという点で、遺伝子治療(遺伝子導入の手法)は非常に有望であると考えられる。 そこで放射線治療後の頭頚部手術における創傷治癒不全に対する遺伝子治療の検討を目的とした。 まず喉頭創部損傷モデルでのreporter遺伝子導入の検討を行った。LacZ遺伝子を含みアデノウイルスゲノムからE1A、E1B、E3遺伝子を欠損したウイルスDNAを持つ発現コスミドカセットDNAと、親ウイルスDNA-末端蛋白複合体(TPC)を293細胞にco-transfectし組み換えアデノウイルス(AxCAhLacZ)を作製した。日本シロウサギを用いた喉頭創部損傷モデルにreporter遺伝子(LacZ遺伝子)を含む非増殖型アデノウイルスベクター(AxCAhLacZ)を導入し、導入後1、2、4週後に喉頭を潅流固定後に摘出し、頚部皮膚、および胸鎖乳突筋の凍結組織切片を作製した.各組織切片をX-gal染色および抗β-galactosidase抗体を用いて免疫染色を施行し、各々での遺伝子発現強度や発現持続期間などを観察した。結果は1週後において、X-gal酵素組織染色でLacZ遺伝子の強い発現を認め、2週後において発現の減弱を認め、4週後ではほとんど発現を認めなかった。 今後は、放射線照射モデルラットを作成し、前述と同様の手法により放射線照射モデルラットにおいてもreporter遺伝子導入の検討を再度行い、更に治療遺伝子(TGF-β、bFGF))導入後の創傷治癒の検討を行っていく予定である。
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