加齢と性ホルモンの唾液腺に与える影響について組織学的検討を行った。ヒト耳下腺組織を耳下腺腫瘍手術、頸部郭清術の際採取し、腺実質の残存と脂肪変性との比率を検討した。加齢により脂肪変性の増加と呼応して有意に腺実質の減少がみられ、とくに女性に減少傾向はより有意な相関が認められた。しかし、臨床的に唾液分泌量や自覚的な口腔乾燥感を観察した場合、高齢で唾液腺萎縮のみられる症例でも刺激時の唾液分泌量が比較的保たれ乾燥感のない症例があり、残存腺房細胞の唾液分泌予備能に差がみられること、分泌機能は腺実質の残存率のみでは結論できないと考えられた。電子顕微鏡による微細レベルでの検討では、加齢とともに唾液分泌低下を示す例において腺房細胞、筋上皮細胞の細胞質にリポフスチン顆粒の増加と腺房細胞の変性と分泌顆粒の減少がみられた。一方、唾液分泌機能の保たれている例では若年者の正常腺房細胞と同様に豊富な分泌顆粒を含んでいた。導管上皮には加齢とともに特異なミトコンドリアを豊富に含むいわゆるオンコサイトが増加していた。実験的にラットの卵巣摘出を行った後、8週目の顎下腺を組織学的に比較したが、明らかな差異はみられず、今後長期的な経過と耳下腺での検討が必要と考えられた。ヒト耳下腺組織でエストローゲンリセプターの局在を免疫組織学的に検討した結果導管上皮に陽性所見を得た。女性ホルモンが唾液腺の機能に何らかの影響を与えていることが示唆された。
|