1、聴覚正常であるBALB/cマウスをホストとして実験を行った。このマウスに放射線照射後、SAMP1マウスの全骨髄細胞を骨髄内骨髄移植(IBM-BMT)した。SAMP1マウスは螺旋神経節細胞萎縮により生後3ヶ月から早期加齢性聴覚障害を生じる。BMT6ヶ月後のホストでのflowcytometryを用いた解析では、ドナー由来リンパ球は、ホストリンパ球に置き換わり、MLRでは、3rd partyのB6マウスに対してはSAMP1マウスの細胞活性と同程度の反応を示した。聴性脳幹反応(ABR)でも、この骨髄移植を受けたマウスは、SAMP1マウスと同程度の老人性難聴の進行を示した。よって、IBM-BMTによる全身免疫機構の変化と共に内耳機能も変化することが明らかとなった。内耳傷害機序の詳細はまだ不明であるが、今後、内耳傷害モデルに対する再生治療実験にて、内耳細胞の修復機序につき検討したい。 2、骨髄移植に際し骨髄(幹)細胞が蝸牛により多く到達する方法を確立する目的で次の実験を行った。 放射線照射後のホスト(Ly5.2-B6マウス)にドナー(Ly5.1-B6マウス)の全骨髄細胞を、IBM-BMTまたは経静脈骨髄移植(IV-BMT)を行い、次にホストの骨髄細胞をさらに第2のホスト(Ly5.2-B6マウス)にBMT(serial BMT)した。その後flowcytometry法やMLRで解析したところ、IBM-BMT施行群ではIV-BMT施行群に比し、ドナー由来T細胞の速やかな回復と、DCサブセットに関し正常個体に近い頻度を示し、また、Serial BMT後でも同様の結果を得た。よって、IBM-BMT施行群では、リンパ球系、骨髄球系の前駆細胞が正常に保持されていることが推測され、実際ドナー由来Lin陰性/c-kit陽性造血前駆細胞が第1、第2のホストで正常個体と同様の頻度を示した。移植後長期生存マウスを用いた解析からも同様の結果が得られた。したがって、IBM-BMTは造血幹細胞維持の点からも優れた移植法と考えられ、今後蝸牛細胞の修復・再生に用いたい。
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