研究概要 |
形態学的・生理学的に明瞭なサブタイプを持つネコの網膜神経節細胞(RGC)を用い、軸索切断後の細胞の生存と軸索再生が電気刺激によって促進できるかどうかを明らかにすることが本研究の目的である。本年度は、in vivoにおけるネコ視神経の電気刺激法・刺激パラメータの確立を中心に研究を行った。 1)視神経に慢性的に埋め込み可能な電極として、シリコンチューブと銀板電極を組み合わせた、カフ型双極電極を作成した。この電極を用いた視神経の逆行性刺激に対する誘発反応および単一ニューロン活動を記録した結果、持続300μsec、1-3mA程度の電流量の刺激を用いると有効に視神経内の軸索を刺激できることがわかった。2)視神経切断直後の一過性の電気刺激によって、ネコRGCの1週間後の生存が促進可能かどうかを調べた。RGCを予め逆行性標識しておき、切断直後にカフ型双極電極を装着し、パルス刺激を20Hzで2時間加えた。一発のパルスの電流量を0(sham),0.5,1,3,5mAと変化させ、持続時間は300μsecで固定した。1週間後に網膜伸展標本上で生存細胞数を計数し、生存率を調べたところ、網膜全体にわたったRGCの生存率は、3mAの刺激の時に有意に増加した。3)3mAの刺激を与えた時に網膜上の一定領域の生存細胞すべてに細胞内色素注入を行って樹状突起の形態から細胞タイプを同定し、タイプ別の生存率を求めた。その結果、α細胞の生存率に変化は無かったが、中心視力を担うβ細胞や、その他の細胞タイプの生存率は有意に増加した。 以上の結果から、切断直後の急性電気刺激によって、1週間後という短期のネコRGCの生存促進が可能であることがわかった。次年度は、データを追加すると共に、慢性電気刺激によってRGCの生存および軸索再生の促進が可能かどうかを検討する。
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