研究概要 |
むき眼位で眼窩プリーが位置変化する現象やプリーの位置異常が非共同性斜視の原因となることが高解像度MRIで明らかにされてきている。このような背景からこの研究は、プリー、および上・下斜筋を含む外眼筋の画像を解析し、上斜筋麻痺のむき眼位における眼位異常に眼窩プリーの位置が変化する現象が関与するという仮説を立て,これを検証することを目的とした。平成17年度の研究は、上斜筋萎縮のある上斜筋麻痺では、むき眼位にかかわらず、正面視において限局的にプリーの構造異常があることを明らかにした。平成18年は、上斜筋麻痺と臨床診断した上斜筋の萎縮を認めない症例を対象にプリーの構造の異常に有無を調べた。 先天あるいは特発上斜筋麻痺と臨床診断した17症例の眼窩MRI画像を解析したところ、上斜筋萎縮を8例、上斜筋の非萎縮を9例、上斜筋萎縮がなく、かつ、明らかなプリーの位置異常を3例に認めた(1症例は平成15年度に報告)。Orbit^<TM>を用いて、症例のプリー位置の測定値に加えて上斜筋の収縮力をパラメータとしてコンピュータ・シミュレーションで得た眼位図と症例のHess赤緑試験の眼位図を比較し、プリーの位置異常のみで上斜筋麻痺様の所見を呈するか否かを検討したところ、症例のHess赤緑試験の眼位図は、上斜筋の収縮力を弱めてシミュレーションしたものよりプリー位置異常のみをパラメータにシミュレーションした眼位図に類似した。これらのうち、2症例では両側外直筋プリーが、正常者のそれよりも下方偏位しており、加齢による変化が疑われた。 以上から、上斜筋麻痺と臨床診断された症例の中には、上斜筋萎縮を認めない、プリーの位置異常による偽上斜筋麻痺が存在する。すなわち、上斜筋に異常がなくても、見かけ上、むき眼位における眼位異常(非共同性斜視)が生じる可能性を明らかにした。
|