15年度は実験的ラットおよびマウス脳虚血モデルおけるオレキシンの動態について検討を行った。上行大動脈を経皮的に5分間血行遮断するラット心停止モデルとマウス中大脳動脈閉塞モデルを作製し、経時的に脳凍結切片を作製して抗オレキシン-抗体(0R)と抗オレキシン-1レセプター抗体(OR-1 receptor)による免疫組織染色を行い観察した。その結果、脳虚血再灌流24時間後に、ORおよびOR-1免疫陽性細胞は脳虚血再灌流後24時間後より、主に海馬CA1領域と皮質領域の神経細胞で認められた。臨床的検討ではくも膜下出血患者における髄液中のオレキシン濃度を測定した。くも膜下出血患者16例について発症時より14日間、RIA法を用いて髄液オレキシン濃度の測定を行った。その結果、全例において髄液中のオレキシン濃度は健常者と比較して14日間を通じて低値であった。H&K Gradeとの明らかな相関はなかったがオレキシン濃度は症候性脳血管攣縮発症例において低い傾向が見られた。特に脳血管攣縮発症日は、その前日と比較して有意に低値を示した。(p<0.05)脳血管障害におけるオレキシンの動態と役割は未だ不明である。今回の検討でオレキシンが脳虚血再灌流後一過性に上昇し、さらにオレキシンレセプターが虚血に対して非常に脆弱である部位の神経細胞に発現していた。この結果はオレキシンが摂食や睡眠調節だけではなく虚血性神経細胞死に何らかの関与をしていると示唆される。また、くも膜下出血患者において髄液中オレキシン濃度が低下していたことの原因は不明であるがくも膜下出血患者における発症後の摂食やエネルギー代謝あるいは睡眠調節に何らかの関与をしていると考えられる。また、脳血管攣縮発症時においてオレキシン濃度がさらに低値を示したことは脳血管攣縮の病態がオレキシン産生に何らかの関与をしていることが示唆された。次年度も継続し研究を進めていく予定である。
|