先年度は、免疫組織化学的手法を用いて、マウス単球/マクロファージ系細胞を広く認識する抗体であるMOMA-2に対する陽性細胞が、正常マウス切歯歯髄に多数存在することを明らかにした。 本年度もまた、マウス単球/マクロファージ系細胞を認識する抗体としてよく知られているF4/80抗体を用いて免疫組織化学的染色をしたところ、正常マウス切歯歯髄において陽性反応を示す細胞が数多く存在することが明らかとなった。骨髄および脾臓から分離したこの抗体に対する免疫陽性細胞は、破骨細胞への分化能を示すという報告がすでにされていることから、正常のマウス切歯歯髄中におけるF4/80陽性細胞は、破骨細胞への分化する可能性のある前駆細胞になりうることを示唆している。 さらに正常マウスの切歯より歯髄を抜き取り、細切後培養皿上で静止させると、組織塊より紡錘状の細胞がoutgrowthしてくる。そこにマウスの腹腔マクロファージを破骨細胞に分化させるときと同じスケジュールでM-CSFやRANKLといったサイトカインを添加すると、歯髄培養組織中に破骨細胞への分化マーカーであるTRAP染色において陽性反応を示す細胞が観察された。これらのTRAP陽性細胞は、歯髄組織中に存在する、先ほど示した抗体で免疫陽性であった単球/マクロファージ系細胞が前駆細胞となり、分化したものと推測される。 よって本年度の実験において、正常マウス切歯歯髄中に見られる多数の単球/マクロファージ系細胞は、M-CSFやRANKLといった通常前駆細胞から破骨細胞へと分化させることのできるサイトカインに応答して、破骨細胞へと分化する可能性があることが示された。 従って生理的状況下のマウスの歯髄において、多数の単球/マクロファージ系細胞が存在するにも関わらず破骨細胞が出現しないということは、この微細環境における破骨細胞分化促進が弱いか、あるいは抑制的な制御機構が備わっているためであろうと推測される。
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