今年度はマウス上皮組織の発育過程およびヒト上皮性疾患におけるパールカンの局在を明らかにする目的で、胎生期から生後4週齢の正常マウス頭部組織および種々の上皮性疾患のヒト外科材料パラフィン連続切片を作製し、パールカンコア蛋白質の局在および遺伝子発現を、免疫組織化学的およびin situハイブリダイゼーション法にて検索した。その結果、マウス重層扁平上皮組織にはパールカン蛋白質の局在はみられなかったが、歯胚上皮組織であるエナメル器では星状網細胞の細胞間隙にきわめて豊富に存在し、星状網細胞にmRNAの発現が認められた。したがって、歯胚上皮組織の形態形成にパールカンが関与している可能性が示された。また、ヒト上皮性疾患では、口腔粘膜異型上皮および扁平上皮癌において、上皮細胞間隙が拡大し、上皮細胞間にパールカンが過剰に沈着し、上皮の癌化過程にパールカンが関与している可能性が示唆された(研究発表2)。 次に、パールカン上皮細胞過剰発現系トランスジェニックマウスの作製をおこなった。上皮細胞に特異的に発現するケラチン5プロモーターにマウスパールカンcDNAを連結し、コンストラクトを作製した。コンストラクトの確認の目的で、ヒト扁平上皮癌細胞株ZK-1にリポフェクション法にて遺伝子導入をおこなった。トランスフェクション後24・48・72時間にRNAを抽出し、RT-PCR法にてパールカン遺伝子発現の変化を確認し、同時に培養細胞を4%PFAにて固定し、抗パールカン抗体をもちいた間接蛍光抗体法にて細胞染色をおこなった。遺伝子添加群において、24時間後にパールカン遺伝子発現が上昇し、細胞質内にはパールカン蛋白質が蓄積していることが確認された。その後、導入遺伝子を調整し、マイクロインジェクション法にてB6C3F1マウス受精卵に注入し、パールカントランスジェニックマウスを作製した。 現在までの解析結果では、F1トランスジェニックマウスにおいて、口腔粘膜・皮膚の上皮組織の基底細胞にパールカン蛋白質の過剰発現が確認され、基底細胞の分化の乱れ、重層化等の上皮組織の形態学的変化が認められている。また、歯胚組織においても、エナメル質形成や象牙芽細胞分化に異常が確認されており、パールカンが上皮組織構築ならびに歯胚形成へ重要な役割を果たしていることがあきらかになりつつある。
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