大脳皮質における神経活動は、II/III層に存在する錐体細胞の水平結合を介して伝播する。この円柱-円柱間の信号伝達は大脳皮質における情報処理に重要であるが、その詳細な制御機構はいまだ不明である。げっ歯類のバレル領野にはヒゲ一本一本に対応する明瞭な機能的円柱が存在し、薄切スライス標本で容易に確認できるため、この信号伝達の制御機構を調べるのに優れた系である。そこで、幼弱マウス(生後11-21日齢)大脳皮質からバレル領野を含むスライス標本を作製し、錐体細胞ペアが同一円柱に存在する場合としない場合の抑制性入力の同期性について検索した。II/III層の錐体細胞ペアから同時にホールセル記録を行い、自発性の抑制性シナプス後電流(sIPSC)が同期するか否かをCross-Correlation解析法を用いて調べたところ、同一円柱内からの記録では、約90%のペアにおいて同期したsIPSC入力が観察された。一方、異なる円柱から記録した場合でも約70%のペアでsIPSCの同期性が観察された。また、約半数で振幅が大きく頻度が極めて高いバースト状のsIPSC入力を認め、そのほとんどは細胞間で同期していた。さらに、膜電位感受性色素を用いた光学計測法により、IV層の電気刺激による興奮伝播を観察したところ、II/III層では円柱構造を越えて広がること、そして味覚野である島皮質ではこの広がりが大きいことが明らかとなった。これらの結果は、バレル領野において抑制性細胞、特にバースト状のsIPSCを発生する抑制性細胞の軸索が円柱を超えて投射し、近位のみならず遠位に存在する錐体細胞をも同期して抑制する可能性を示唆する。
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