げっ歯類の体性感覚野に存在するバレル野は、ヒゲによって担われる体性感覚情報を処理し、極めて典型的な機能円柱構造を有することから、顎顔面領域における感覚を鋭敏に保つ機序を解明する上で最適の領野である。平成15年度、研究代表者はII/III層の錐体細胞ペアから同時にホールセル記録を行い、自発性の抑制性シナプス後電流(sIPSC)が同期するか否かをCross-Correlation解析法を用いて調べた。その結果、同一円柱内からの記録では、約90%のペアにおいて同期したsIPSC入力を観察し、一方、異なる円柱から記録した場合でも約70%のペアでsIPSCの同期性を確認した。また、約半数で振幅が大きく頻度が極めて高いバースト状のsIPSC入力を認め、そのほとんどは細胞間で同期することを明らかにした。これらの結果は、バレル領野において抑制性細胞、特にバースト状のsIPSCを発生する抑制性細胞の軸索が円柱を超えて投射し、近位のみならず遠位に存在する錐体細胞をも同期して抑制する可能性を示唆する。そこで平成16年度、この同期性を生み出すバレル野II/III層におけるGABA_A受容体を介する抑制性シナプス伝達の生後発達を調べた。非錐体細胞と錐体細胞から同時にホールセル記録を行い、非錐体細胞に細胞内通電して活動電位を発生させて錐体細胞から抑制性シナプス後電流を記録し、非錐体細胞-錐体細胞間における抑制性シナプスの素量解析を行った。その結果、II/III層の抑制性シナプス伝達において、シナプス前膜における放出確率の上昇は生後10-12日齢までの早い段階で完了するのに対し、Readily releasable poolの数は少なくとも生後4週まで増加し続けることが明らかとなった。
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