研究概要 |
放射線治療(以下,RT)・腫瘍・患者に関連した下顎骨放射線骨壊死(以下,ORN)の危険因子を明確化することを本年度の目的とした。収集したのは126症例であるが,RT前から定期的に経過観察された頭頸部放射線治療患者で,照射野に歯と顎骨を含み,経過観察期間中に腫瘍の残存または再発が認められないことを条件としたところ,条件を満たす症例は23症例に絞られた。RT因子として治療法,線源下顎骨線量,腫瘍因子として原発部位,患者因子として初診時年齢,性別,経過観察中の顎骨感染,口腔衛生状態,歯周組織の状態を調査・検討した。特に,歯科管理で重要と思われる口腔衛生状態と歯周組織の状態についてはRT前,RT後1年,RT後2年,RT後3年と経時変化を振り返って調査した。ORNは様々な定義があり,施設間の発生率の違いは定義の違いであると言われているので世界的な基準であるLENT Scoreを利用し,より厳密な評価をするためにGrade2以上とした。歯周組織の状態はエックス線画像で,独自に3分類した。この分類は簡便かつ歯周組織の傷害の程度を明確に表すことから歯周疾患の重篤度や治療の効果を評価するのに非常に利用価値の高い分類と考えられる。結果として,初診時,危険因子は年齢,下顎骨線量であり,歯周組織と口腔衛生状態は危険因子とならなかった。しかし,今回の症例はすべてRT前に歯周組織の状態の悪い歯は抜歯されていたのでこの点は考慮が必要と思われた。加えて,RT後の歯周組織と口腔衛生の状態の悪化がORNの危険因子となり,具体的にはプラークスコアで30%以上,エックス線画像による歯周組織の状態はGrade 3になるとORNが発生しやすくなることが新たな知見として示された。一般に,ORNの発生時期には2つのピークがあると言われており,早期は線量,晩期は口腔衛生が強く関与している可能性が新たに示された。
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