研究概要 |
申請者はこれまでに、象牙質接着材成分に多く用いられているHEMA及びTEGDMAがヒト由来単核球細胞系(THP-1)のストレス蛋白(HSP72)誘導を阻害することを明らかにした。このことから、歯科用光硬化型充填材料で修復した際、充填材料より溶出した成分が細胞のストレス応答力を低下させていることが示唆された。そこで、象牙質接着材成分として添加可能で、ストレス蛋白誘導を補助的に活性化する物質を検討した。 象牙質接着材に添加可能で材料性能(特に歯質への接着力)を低下させない物質として、2個の金属イオンのうちHgとNiイオンを選び、これらがTHP-1細胞のHSP72誘導に及ぼす影響を調べた。 まず、これらのイオンの24時間での毒性を評価し生存率が50%以上となる濃度を用いた。Hgイオンでは2,5,10μMをNiイオンでは20,40,100μMをTHP-1培養液に添加し43℃で1時間熱ショックを加えた。その後、2〜6時間通常の条件にて培養し、電気泳動用の試料とした。HSP72の検出はウエスタンブロッティングにより行った。 その結果、Hgイオン存在下では熱ショックを加えなくてもHSP72の誘導が認められたが熱ショックを加えられるとHSP72の誘導は低下した。Hgイオンそのものがストレス蛋白の誘導原であり、さらに熱ショックが加わったために細胞の代謝活性にまで影響を及ぼしたと思われた。 Niイオン存在下では、熱ショックを加えないとHSP72の誘導は見られなかった。すなわち、Niイオンは細胞に対して大きなストレス原とはなっていないことが示唆された。さらに、熱ショックを加えた場合、HSP72の誘導の促進を認めた。 このことから、Niイオンなどの金属イオンを用いることでHEMAやTEGDMAによるHSP72誘導阻害をある程度補償できる可能性が示唆された。 今後は、HEMAやTEGDMAのHSP72誘導の細胞核内でのメカニズムをより詳細に検討し、細胞のストレス応答に影響のより少ない材料を研究開発を進めていく予定である。
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