象牙質に対する接着システムの性質が著しく向上したのに伴い、新しい概念の象牙質齲蝕治療法が提唱されている。近年の研究により齲蝕の影響を受けた象牙質へのレジン浸透性は、健全象牙質と比較して著しく低下することが明らかとされており、レジン浸透性を向上させるために何らかの表面処理が必要であると考えられる。今回、接着システムの処理方法が人工齲蝕象牙質へのレジン浸透性に与える影響について検討した。 抜歯適応となったヒト健全生活大臼歯を被験歯として用いた。抜去歯の歯冠半分を切断し新鮮な象牙質表面を露出させた後、この試料をStreptococcus mutans MT8148を接種した0.5%スクロース含有ブレインハートインフユージョン液体培地に2週間浸漬し、人工齲蝕象牙質表面を形成した。接着システムは、セルフエッチングシステムであるメガボンド(クラレ社)とウェットボンディングシステムであるシングルボンド(3M社)を各処理方法で使用した。接着界面の微細構造、および引張試験後の試料の破断面の微細構造を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。 接着界面のSEM観察により、人工齲蝕象牙質表面では接着システムのどの処理方法においても、明らかな樹脂含浸層は観察されず、象牙細管内のレジンタグも少ない傾向が認められた。また、引張試験後の破断面のSEM観察において、破断面のほとんどが界面破壊の様式であり、接着システムの処理時間を延長してもレジン浸透性が向上していないことが確認された。これらの結果より、接着システムの処理方法を変えることにより人工齲蝕象牙質へのレジン浸透性を向上させることは困難であり、さらなる表面処理法の検討が必要であると考えられる。
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