研究概要 |
【目的】歯髄を保存することは、歯牙の寿命を延ばし、患者の口腔内環境に利益のあること考えられている。しかし、齲蝕治療や歯冠破折による露髄では歯髄の保存が困難であり、歯髄の除去療法が多く選択される。現在臨床で用いられている歯髄覆罩剤は硬組織形成能が少なく、歯髄保護の観点から積極的な硬組織誘導能を持つ新規の覆髄剤の開発が望まれている。一方、スタチン類は高脂血症の治療薬として用いられてきたが、最近の研究において硬組織に対して石灰化促進作用があることが報告された。そこで、スタチン類を歯髄の硬組織形成に応用することを目的として以下の実験を行った。 【実験方法】ラット上顎切歯歯髄細胞を12穴、24穴プレートに播種し、アスコルビン酸、B-グリセロリン酸を含むE-MEM培地にて培養を行った。試薬はシンバスタチン(和光純薬)1.0 x 10-6M,2.0 x 10-6M,5.0 x10-6M,0 X 10-6M濃度(対照群)に調整し、培養細胞がコンフルエント後、実験期間中作用させた。解析は7、14日後石灰化のマーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性について計測を行い、14日目にフォンコッサ染色により石灰化結節の数と面積について計測した。 【結果】実験開始7日目より、ALP活性はシンバスタチンにより対照群と比較して有意に増加した。また、14日目においてもALP活性はシンバスタチン群で上昇し、その効果は2.0 X 10-6M濃度で最高であった。ラット歯髄細胞は10日ぐらいから対象群において石灰化結節が認められた。フォンコッサ染色された石灰化結節については個数、面積においてシンバスタチン投与群において、有意に上昇した。 【考察】歯髄は間葉系由来の多様な細胞の集合組織であり、硬組織形成に関与する細胞も含まれているが、石灰化能に関する実験系は少ない。今回用いた歯髄培養法では、細胞のALP活性が高く、石灰化結節も認められるため、歯髄細胞の石灰化能に関する研究に適していると思われる。今回の実験結果からシンバスタチンによりALP活性が濃度依存的に上昇し、石灰化結節も増加したことから、シンバスタチンは歯髄細胞に対して硬組織形成亢進作用があることが示峻された。現在、硬組織形成に関与すると思われる遺伝子について、分子生物学的手法を用いて検索中である。
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