研究概要 |
【目的】根尖病巣における歯槽骨の吸収は、細菌感染とそれに対する宿主の免疫応答が関与している。そこで我々は、根尖病巣のなかでも特に歯根嚢胞における炎症性および破骨細胞関連サイトカインmRNAの発現と病理組織学的検討を加えた。【対象および方法】対象は、患者14名(男性8名、女性6名、平均年齢41.9歳)で、臨床的に歯根嚢胞と診断、患者から同意を得た上で科学研究費補助金一般研究C(平成7年度)で作製した組織採取用器具を用いて得られた嚢胞壁を試料とした。またコントロールは、同部の炎症を有しない歯肉を用いた。方法は、試料を2分割し、一方はRNA単離後、RT-PCR法でサイトカインmRNAの発現について検討を加えた。他方はHE染色法による病理組織学的検討に使用した。なお本実験に関しては、「京都府立医科大学における人間を対象とする医学研究審査委員会」にて承認済みである。【成績】サイトカインmRNAの発現は、大半の症例にIL-1β,IL-6,IL-8,TNF-α,RANKL,OPGの発現が、わずかの症例にRANK,M-CSFの発現を認めた。組織学的には、全ての症例で好中球やリンパ球の浸潤を認め、一部の症例には形質細胞が存在した。なお、全ての症例は、病理組織検査で歯根嚢胞であった。【考察および結論】サイトカインmRNAの発現に関しては、多数の炎症性サイトカインが検出された。そして、大半の症例にTNF-αmRNAの発現とわずかの症例にRANKmRNAの発現を認めたことから、歯根嚢胞での破骨細胞の活性化がRANK-RANKL系に依存する経路よりRANK-RANKL系に依存しない経路が優位に関与していると考えた。なお、サイトカインmRNA発現と炎症性細胞浸潤の程度については、明らかな関連性を得るには至らなかった。
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