研究概要 |
ヒト四肢筋では筋肉が収縮する際に必要なエネルギー源を供給する物質のひとつであるクレアチンリン酸(PCr)濃度と酵素組織化学的方法による筋線維組成との間に相関があると言われているが,ヒト咬筋では四肢筋とは異なり,明らかな相関は認められなかった.その違いは,咬筋の筋線維組成が四肢筋とは異なり速筋線維型酵素と遅筋線維型酵素の両者を含んだ中間型筋線維のよること,酵素組織化学的表現型が単一であっても筋収縮タンパクであるミオシン分子による表現型は複数であること(ミオシン重鎮アイソフォーム)にも関連があると考えられる. 本研究の目的は,ヒト咬筋のPCr濃度とその部位におけるミオシン重鎖アイソフォームとの関連性について検討することである.これまでPCr濃度はリン酸化合物の非侵襲的測定が可能である^<31>P-magnetic resonance spectroscopyにより測定していたが,咬筋の筋線維組成が複数の型,表現型を持つことを踏まえると,より精度の高い分析法を導入する必要があると考えた.そこで,本年度はミオシン重鎖アイソフォームの分析方法を確立する前段階として,PCr濃度の生化学的方法についての検討を加えることとした.そして筋生検で得られた試料を用い,脱蛋白,中和等の処理後,分光光度計で吸光度を測定し,濃度を算出するという各ステップの条件を確立できつつある.この方法を併用すると,PCr濃度以外にもアデノシン三リン酸(ATP)濃度も測定できること,筋線維組成分析する組織と同部分のPCr濃度を把握することが可能であり,筋線維組成とPCr濃度の関連について検討できるのではないかと思われる.
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