(1)FISH法を用い、Cyclin D1遺伝子増幅を解析することによって、頸部リンパ節転移を予測することが可能であるか検討した。臨床的にN0と診断され、一次治療としで原発巣の外科的切除が施行された36例である。このうち後発リンパ節転移は15例(41.7%)に認められた。Cyclin D1遺伝子増幅は12例(33.3%)に認められ、そのうち後発頸部転移の認められた症例は11例(91.7%)であった。同方法における頸部転移予測の正診率は31/36例(86.1%)であった。また、同遺伝子増幅と癌の浸潤傾向やstageとの間に関連性が認められた。これらの結果からcyclin D1遺伝子は細胞周期に関与するのみならず、浸潤や転移に深く関連性のある遺伝子であり、個々の癌の悪性度診断及び後発頸転移予測に有用なバイオマーカーの一つであると考えられた。 (2)口腔扁平上皮癌発癌過程におけるRb pathwayの異常の関与を検索するために、Cyclin D1遺伝子の増幅とp16遺伝子の欠失をdual Color FISH法にて解析した。口腔扁平上皮癌一次症例49例解析した結果、25例(51.0%)にCyclin D1遺伝子の増幅が認められ、20例(40.8%)にp16遺伝子の欠失が認められた。32例(65.3%)においていずれか1つが認められ、Rb pathwayの異常の口腔癌発癌・進展過程への関与が示唆された。 (3)口腔扁平上皮癌発癌過程における、Cyclin D1遺伝子増幅の時期に関して検討した。同一口腔扁平上皮癌患者の原発巣およびリンパ節より細胞を採取し、dual color FISH法にて解析した。その結果、原発巣でCyclin D1遺伝子増幅が認められた症例は、リンパ節転移が生じていた場合、必ずリンパ節においても増幅が認められた。従って、Cyclin D1遺伝子増幅は少なくともリンパ節転移が生じる以前に、原発巣において起こっていることがわかった。
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