東京歯科大学千葉病院において手術を行った口腔癌症例中、LeveIII以上の頚部郭清手術を伴った55例(男性34例、女性21例)を対象とした。年齢は26〜85歳、平均58.4歳であった。 術直後より体温、心拍数、呼吸数、および白血球数を経時的に測定した。次いでSIRS診断基準のうち2項目以上を満たし、その状態が24時間以上持続した群をSIRS群、その他を非SIRS群とした。これらの症例に対し、手術術式との関連、SIRS群と非SIRS群との比較(年齢、手術時間、出血量、術後の合併症発生率)について検討した。さらにSIRSは高サイトカイン血症であるとの見地から、術前・術後の血中インターロイキン6(以下IL-6と略す)を測定した。以下に結果の概要を示す。 1.SIRSの発現は45.5%にみられ、非SIRS群と比較して年齢、出血量、に有意差は認められなかったが、手術時間はSIRS群のほうが有意に長かった。 2.SIRS持続日数は術後1日が56.0%、2日間が16.0%、3日間が20.0%、4日間および6日間が各4.0%となり、術後1日のみが半数以上を占めていた。 3.SIRS群では56.0%に術後合併症の発生がみられ、非SIRS群では6.7%であり、両者間に有意差が認められた。 4.SIRS群の術後合併症は肺炎5例、創の感染6例、移植組織の壊死3例で、非SIRS群の合併症は軽度の肺炎1例と帯状庖疹1例であった。 5.SIRS持続日数と術後合併症発生率には有意差のある相関は認められなかった。 6.炎症性サイトカインの一つであるIL-6の値は、SIRSの発現に大きく関与していることが示唆された。 7.SIRS群を選択し、これらに対して術後合併症の発生を考慮にいれた注意深い患者管理が大切であると考えられた。 ※本研究で得られた成果は日本口腔腫瘍学会誌上で発表した。
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