口腔扁平上皮癌における顎骨浸潤のメカニズムの解明と、新たな臨床応用の可能性を探る目的で本研究を計画した。そこで現在までに達成された成果を報告する。 口腔癌細胞株SCCVIIと雄性C3H/HeNマウスを用いた顎骨浸潤モデルを本実験に用いた。解析項目はH-E染色およびTRAP染色による病理組織学的解析とマイクロCTによる顎骨形態の解析で、ともに顎骨の著明な浸潤と破骨細胞の集積を認めた。また、顎骨浸潤に際して破骨細胞が集積する現象に着目し、破骨細胞の分化、制御に関わるサイトカンをRT-PCRによるmRNAの発現で解析した。候補サイトカインはIL-6、TNF-α、PTHrP、RANKL、RANK、OPGとした。その結果、IL-6、TNF-α、PTHrPの発現率がそれぞれ56.3%、68.8%、93.8%と高率に認められた。またこれらサイトカインネットワークの下流で制御をおこなっているRANKL、RANKもそれぞれ75%、68.8%と高い発現率を示し、口腔癌細胞が何らかの応答でこれらサイトカインを分泌あるいは誘導し、破骨細胞を活性化し癌浸潤へ導いていることが明らかとなった。 続いて顎骨浸潤に対する治療戦略として、破骨細胞を抑制するbisphosphonate製剤の投与実験をおこなった。用いた薬剤は第2世代であるpamidoronateで100μg/dayを4週間腹部皮下注射して同様の解析をおこなった。その結果、投与群では顎骨浸潤が形態学的ならびに病理組織学的に100%抑制された。またIL-6、TNF-α、PTHrPの発現率が低下した。また現在治験中の薬剤である第3世代のbisphosphonate製剤(YM529)について同様の解析をおこなった結果、2ug/dayの少量投与で同様の結果が得られた。このことから顎骨浸潤の治療にbisphosphonate製剤が有用であることが示唆された。
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