【目的】不正咬合として下顎の偏位モデルを選択し、その際に生じる咀嚼刺激が、歯根膜・咀嚼筋・顎関節の入力系にどのよう伝達されるのか、また、顎顔面頭蓋の成長発育・形態維持にどのような影響を与えているのかについて明らかにする。 【材料と方法】成長発育期における下顎偏位が咀嚼の神経性入力に及ぼす影響を検討するために、咬合干渉といった機能的要因による咬合状態の変化により、成長期ラットにおいて上顎および下顎切歯にバンドマテリアル製の斜面板を装着して、下顎骨側方偏位モデルを作成した。このモデルを使用し、偏位群と、回復群に分け、下顎頭軟骨層の細胞増殖能については抗BrdU抗体を用い、細胞死(アポトーシス)についてはTUNEL法を用いて細胞数について定量的に比較・検討を行った。また咬合の不調和が引き起こす咀嚼による感覚情報の変化ついて、咀嚼筋筋紡錘の組織化学的および免疫組織学的に観察を行った。 【結果】偏位群においては、非偏位側の下顎頭内側が突出、偏位側の下顎頭外側の扁平化が認められた。また非偏位側の下顎頭内側成熟層・肥大層の幅の増加が確認され、抗BrdU抗体による免疫染色の結果、増殖層と成熟層に増殖細胞が増加していることが確認された。また咀嚼筋筋紡錘の免疫組織学的検討においては、特に非偏位側における形態変化が顕著に認められた。 【考察】機能的圧力の変化が成長期における下顎頭軟骨の分化・形成に影響を与え、下顎頭外形の形態変化、さらには咀嚼筋筋紡錘からの中枢への入力の不調和が生じることにより、下顎の機能的側方偏位は顎顔面頭蓋の成長発育に影響を与えることが示唆された。今後得られた成長発育期のデータをもとに、成人期、高齢期における偏位モデルにおける咀嚼の神経調節機構について、同様に実験を行い比較、検討を行う。
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