研究概要 |
小児の顎運動の特徴を明らかにするために,顎口腔機能に異常を認めない個性正常咬合を有する混合歯列期小児10名(Hellmanの歯年齢IIIA期,平均年齢8歳10か月),永久歯列初期小児10名(Hellmanの歯年齢IIIC期,平均年齢11歳5か月)と永久歯列期成人10名(平均年齢25歳7か月)について顎運動測定を行い,顎口腔機能の評価を行うとともに,側方滑走運動時の3次元的な額頭運動について検討した. 顎運動測定には6自由度顎運動測定器(松風社製、MM-JI-E)を使用した. 顎運動の解析点は切歯点,作業側と非作業側の運動論的顆頭点とした. 結果,切歯点と顆頭点での限界運動範囲はIIIA期小児が成人より有意に小さく,成長とともに増加した.最前方咬合位での顆頭移動量は各群間で有意差を認めなかった.最側方咬合位での作業側顆頭移動量はIIIA期小児が成人より有意に大きく,成長とともに減少した.前方滑走運動時の矢状切歯路角と矢状顆路角,側方滑走運動時の矢状面と前頭面での切歯路角はIIIA期小児が成人より有意に小さく,成長とともに増加した. 側方滑走運動時の作業側顆頭移動量はIIIA期小児がIIIC期小児,成人より有意に大きく,成長とともに減少した.側方滑走運動時の上下方向への作業側顆頭移動量はIIIA期,IIIC期小児が成人より有意に大きく,成長とともに減少した.側方滑走運動時の左右方向への作業側と非作業側顆頭移動量はIIIA期小児がIIIC期小児より有意に大きく,IIIC期小児と成人の間には有意差を認めなかった. 以上の結果から,小児では成人と比較して滑走運動時,顆頭運動の可動性が高く,その一因として下顎全体の水平的な運動が関与していることが示唆された.また顎運動は成長とともに安定するものの,IIIC期小児においてもまだ顎機能の発育に余地が残されていることが示唆された. 本研究の結果は第51回JADRおよび第82回IADRにて発表した.
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