本研究は、いわゆる"噛める子"と"噛めない子"の咀嚼機能の違いを科学的、客観的に明らかにすることを第一の目的としている。さらに、"噛めない子"つまり咀嚼機能低下や不全に対する診断基準を確立し、将来的には、訓練法の提示やその際に使用する咀嚼機能訓練用食品もしくは、健全な咀嚼機能の育成に適した食品の性状、大きさ、硬さについて明らかにしたいと考えている。これらの目的を到達する為、本研究では、咀嚼能率による"噛める子"と"噛めない子"の分別、咀嚼機能(咀嚼運動・筋電図・主咀嚼部位)の計測、"噛めない子"の咀嚼機能の解析評価と咀嚼機能の診断基準の作成、"噛めない子"に対する咀嚼訓練法および咀嚼訓練用食品の提示、を具体的目的とした。 本研究期間においては、まず正常な咀嚼機能を有すると考えられる小児の咀嚼機能の計測を行い、解析をおこなった。これまでは被験食品としてガムを用いて小児の咀嚼運動の変化について報告してきたが、今回は大きさが同じで硬さの異なるグミを用いて咀嚼させた場合の咀嚼運動の解析を中心に行った.その結果、正常な咀嚼機能を有する小児であっても、硬い食品を咀嚼させると開口位から食品を噛み込むのに時間を要し、リズミカルな咀嚼運動を行うことができない様子が伺えた。本研究では咀嚼開始から嚥下にいたる過程を解析したが、特に咀嚼開始直後にその傾向が認められた。また、この傾向は乳歯列を有する低年齢の小児で認められ、永久歯列期になると硬い食品であってもリズミカルな咀嚼運動によって咀嚼が行われていることが明らかとなった。一方、大きさが同じであっても硬い食品を噛み切るために、より大きく開口するなど、口腔内において認識された食品の性状の違いによって咀嚼運動が調節される様子が、すべての年齢の小児で認められた。なお以上の結果は、論文に作成中である。また現在、咀嚼を円滑に行うことの困難な"噛めない子"に関しても計測および解析を行っている。
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