我々は、齲蝕原性細菌の歯面付着に必須であると考えられている抗原I/IIと、高い相同性を示すエナメルマトリックス蛋白が存在することを明らかにした。これは、アメロブラスチンと呼ばれるO型糖鎖結合タンパク質であり、本分子のN末端側のプロリンリッテ領域と、ミュータンスの抗原I/IIと高い相同性を示した。 ミュータンスの抗原I/IIは、ハイドロキシアパタイトや、細胞外マトリックスであるコラーゲンとの結合を示し、初期の歯面への付着や、象牙質内侵入に重要であると考えられている。実際、アメロブラスチン蛋白がこの領域を利用して、ハイドロキシアパタイトとの結合能を有しているかを検討するために、各種ドメインを欠損したリコンビナント蛋白と真核細胞発現ベクターを作製し、その結合能に関して検討を行なった。その結果、N末端側のプロリンリッチ領域は、ハイドロキシアパタイトとの結合能を有し、逆にC末端側は細胞接着に重要な領域であることが明らかとなった。つまり、アメロブラスチン蛋白は、形成されたハイドロキシアパタイト結晶と、エナメル芽細胞との結合を行ない、エナメル芽細胞を形成中のエナメル表面に維持するのに重要であることが示唆された。 また、アメロブラスチン蛋白のC末端側にはカルシウムイオン結合領域であるEF-handモチーフを有する。N末端側のハイドロキシアパタイト結合能には、このEF-handモチーフの存在が重要であることが明らかになった。我々の結合実験では、EF-handが存在する場合、カルシウム濃度依存的にハイドロキシアパタイト結合能が変化することが明らかになった。 以上の結果から、エナメル表面への結合に関して、エナメル芽細胞とミュータンスとは、共通のシステムを利用して行なっていることが示唆された。現在、アメロブラスチン蛋白とコラーゲン等の細胞外マトリックスとの相互作用について、また、その結合に必須のアミノ酸配列に関して検討を行っている。
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