歯に特異的な細胞外マトリックスの一つであるアメロブラスチンは、エナメル質形成に必須の分子であることが明らかになり、N末端側のプロリンリッチ領域は、ハイドロキシアパタイトとの結合能を有することを明らかにした(平成15年度)。このプロリンリッチな領域は、ミュータンスの抗原I/IIと相同性を示すとともに、アメロジェニンとも比較的高い相同性を示すことが判明した。このことから、アメロブラスチンは、in vitroでハイドロキシアパタイトと結合するとともに、in vivoにおいても形成中のエナメル質と積極的に結合する可能性が示唆された。 一方C末端側、3カ所のヘパリン結合領域の同定を行い、これらの領域がアメロブラスチンの細胞接着能に重要であることを明らかにした。また、アメロブラスチンの細胞吸着活性は、外来性に添加したヘパリン、ヘパラン硫酸プロテオグリカンによって阻害された。したがって、同部位と相互作用を示す分子の候補として、ヘパラン硫酸プロテオグリカンが考えられた。そこで、エナメル芽細胞に特異的に発現を示すヘパラン硫酸プロテオグリカンに関して、細胞接着活性を有することから、受容体タイプであるシンデカン、グリピカンファミリーに着目し、検索を進めた。その結果、グリピカン1が分化したエナメル芽細胞に特異的に発現し、アメロブラスチンと組織内での局在が一致すること、またリコンビナントアメロブラスチン蛋白が、in vitroで結合することが明らかになった。以上の結果から、アメロブラスチン受容体の候補分子の一つとして、グリピカン1が重要であることが明らかとなった。アメロブラスチンは外来性に添加することで、歯原性上皮細胞の細胞増殖を抑制し、さらにアメロブラスチンノックアウトマウスは、歯原性腫瘍を形成することから、このアメロブラスチンとグリピカン1の相互作用の解明は、これら腫瘍形成の分子メカニズムの解明のみならず、腫瘍増殖抑制を目的とした分子治療へと応用可能な知見となりうる。
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