近年、再生医療の分野では、失われた皮膚・骨のかわりに人工的に作られた皮膚・骨などを移植する治療が行われている。歯科の領域では、歯周疾患で失われた歯槽骨部位を骨誘導因子(BMP)により再生させる試みがされているが、歯の再生に関する研究はこれからの課題であるといえる。これは歯という複雑な硬組織を形成する各種の細胞に関する分化メカニズムが不明であることが大きい。また、歯槽骨内において歯の萌出に関与する破歯細胞と破骨細胞の分化と機能発現機構に関する研究も進んでいない。 本研究の目的は、象牙質形成を担う象牙芽細胞と歯の萌出に関る顎骨周囲の破骨細胞、それぞれの分化メカニズムを明らかにし、象牙質再生への臨床応用と歯の萌出機構の解明を目指すものである。 本年度の実験計画においては、マウスの歯髄細胞から象牙芽細胞の形質を具備する株化細胞を樹立することを目標とした。正常マウス(c57BL/6J)の下顎前歯から採取した歯髄組織をコラーゲンゲルの中に包埋し、三次元培養を行った。培養1週間後、コラーゲンゲルをコラゲナーゼ処理することにより、歯髄細胞からアウトグロースした細胞を回収した。これらの細胞群を培養Dish上で継代培養し、現在約12ヶ月経過している。これらの歯髄由来の細胞の形質については現在詳しく解析中であるが、その特徴としては細胞増殖活性がきわめて低いことである。今後、これらの細胞に対して、DMP-1遺伝子を組み込んだアデノウイルスベクターを感染させ、DMP-1を高発現した象牙芽細胞を用いたin vitroにおける象牙質石灰化のモデルの作製を目指す。
|