2型糖尿病や肥満患者における歯周炎の発症と進行には、過剰な免疫応答に起因する組織破壊が関与する可能性が指摘されている。インスリン抵抗性改善薬として用いられるチアゾリジン誘導体は、脂肪細胞を分化度の低い小型細胞に逆分化させ、炎症性サイトカインの産生を抑制することが示唆されている。 本研究ではまず、歯周病菌(P.gingivalis(Pg)、F.nucleatum(Fn))およびE.coli(Ec)由来LPSが単球および脂肪細胞からの炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、アディポネクチン)産生に与える影響を調べた。その結果、1.ヒト単球細胞株THP-1からのサイトカイン産生はLPS刺激によって変化しなかった。2.脂肪細胞からのTNF-αとアディポネクチンの産生はLPS刺激によって変化しなかったが、IL-6産生はLPSの濃度依存的に上昇した。また、IL-6産生はEcLPS刺激によって最も著しく増強し、続いてFn、Pgの順であった。 そこで次に、チアゾリジン誘導体が脂肪細胞の形態ならびにIL-6産生性に及ぼす影響を検討した。その結果、1.チアゾリジン誘導体との共培養により、肥大した脂肪細胞は小型化した。2.チアゾリジン誘導体は、PgおよびFn LPS刺激によって増強されたIL-6産生を85%程度抑制した。一方、Ec LPS刺激により増強されたIL-6産生の抑制は35%程度であった。 LPS刺激によって脂肪細胞からのIL-6産生性が亢進したことは、糖尿病患者における重度の歯周炎でCRP値が上昇するという現象に脂肪組織が関与している可能性を示唆している。チアゾリジン誘導体は本来インスリン抵抗性改善薬として投与されるが、その作用に加えて2型糖尿病に罹患している歯周炎患者においてIL-6産生を抑制し、結果的にCRP産生を抑える薬剤としても有用である可能性が示唆された。
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