研究概要 |
目的:高齢者を対象としたコホート研究により,咀嚼機能が低い者は日常生活動作能力が低下しやすいという仮説を検証することが本研究の目的である。 対象および方法:1998年のベースライン調査を受けた地域高齢者599名を対象として,2003年に5年後の追跡調査を実施した。調査した項目は,咀嚼機能(山本式判定表),日常生活動作能力,およびADLに関わる要因(体力,健康習慣,体調など)である。調査対象のうち,追跡できた者は406名(男性216名,女性190名)であり,追跡率は67.8%であった。なお,対象者には,本研究の目的,内容,必要性,ならびにプライバシーの保護等について,説明書に基づき十分な説明を行い,書面による同意を得た。 分析対象者は,ベースライン時に日常生活動作能力が高いと判断できたFunctional Performance Score (FPS)6点以上の270名である。5年後の日常生活動作能力の低下に及ぼす要因を分析するために,ベースライン時の咀嚼機能や全身状態などの各要因ごとに,動作能力低下者の発生割合をクロス集計にて求めた。 結果および考察:5年後にベースライン時の動作能力を維持できなかった(FPSが5点以下に低下)者の割合は63.3%であった。70歳を過ぎると多くの高齢者において歩行や階段昇降などの能力が著しく低下してくる実態が示された。 また要因分析の結果,咀嚼機能が低い者において動作能力低下者の発生割合が高く,統計学的な有意差が認められた(p=0.013;x^2検定)。その他の要因として,最近の体調,聴覚,足の痛み,腰痛,定期的な運動,脚伸展パワーがそれぞれ動作能力低下の発生と有意に関連していた。今後は,さらに追跡調査を実施し,そのデータをもとに分析をすすめていく予定である。
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