わが国の看護学修士課程において、理論と実践を統合させるシステマティックなカリキュラムを構築していくために、今回の研究では、まず現状のカリキュラムを分析し、上級実践看護師教育において先駆的存在である米国のカリキュラムとの比較を通して、今後の検討課題を得ることを目的とした。本年度は、日本の看護学修士課程において研究への参加協力に承諾を得られる課程の教育カリキュラム・シラバスを収集し、米国のNLN(全米看護連盟)認可の修士課程のうち、過去5年間におけるベストランキングの上位20位以内に入ったプログラムを持つ大学院の教育カリキュラムの理念、目的、目標、概念枠組み、科目構成、履修順序、理論・実践・研究の配分と方法を比較し、相違点及び類似点を明らかにした。 その結果、米国の修士課程の特徴として、まず専門分野の細分化、プログラム内容の豊富さがあげられた。現在、修士レベルでは、実践の場でリーダーとしての役割を果たす能力を育成することを目的とし、CNSやナースプラクティショナー(NP)に代表される上級実践看護師プログラムが8割以上を占めている。そのためカリキュラム構成も実践の範囲の拡大に対応し、上級アセスメント、病態生理学、薬理学、マネジメント能力、リーダーシップスキルの育成に重点がおかれ、臨地実習においても時間について明確に示され、全単位数に占める割合も大きい。 理論と実践が統合するためのシステムとしては、講義から演習、実習を通して一貫して専門職としての自律性・責任感を養うことが徹底していること、臨地実習に参加するためには一定の基準が明示されていること、対象者及び学生の安全対策を考慮した上で積極的に現場で行われている看護ケア・医療処置へ参加できる体制が作られていること、学生が臨床現場で働きながら学ぶことが出来る時間割になっていること、講義にも毎回各専門分野のエキスパートを招き、臨床の最前線の知識・技術、倫理的な側面について学ぶことができること、大学教員が臨床を行っている施設を学生の臨床実習先とし、一貫した指導、役割モデルとなることなど現場と教育との距離が開かないような工夫がされていることが明らかになった。医療を取り巻く状況の違いを熟慮して比較検討する必要があるものの、今後わが国においても看護学の学士課程及び博士課程全体を視野に入れた上で修士課程の教育をどのように位置づけるかを明確にしていくこと、育成する人材の看護の中の専門性と存在意義を検討した上で具体的な教育目標を設定すること、学生の看護実践能力の質を保証する演習・実習環境の整備、及び実習受け入れ施設との連携の充実を図ることなど幅広い側面からの検討し、教育課程の改善、充実を図っていく必要がある。
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