入院を契機に、約20%の高齢者が日常生活動作能力の低下を経験している。下肢筋力低下による歩行障害が主要な動作制限因子であるが、下肢筋力と動作能力を客観的に評価する指標は確立されていない。その背景には、高価で使用場所が限定される測定機器の問題、単一筋群しか測定できないなど測定方法の問題がある。 そこで、実用的な筋力評価を得るために、昨年度は床上で多関節筋群の総合的な筋力を測定できる装置を開発した。 科学研究費交付2年目は、臨床応用の前段階として、健常成人を対象に以下の内容について取り組んだ。 1)総合下肢筋力測定値(kgf)の再現性の検証 最大随意収縮時の総合下肢筋力について、同時および日差再現性を検討した。下肢伸展時の筋力測定値の変動係数は同時再現性で6.0-7.8%、日差再現性で9.3%だった。 2)下肢主働筋群の同定 (1)体位と筋活動との関連:表面筋電図を用いて、等尺性筋収縮時の下肢筋活動を座位と臥位で検証した。大腿四頭筋、前脛骨筋、腓腹筋では体位による筋活動の変化を認めなったが、大腿二頭筋は下肢伸展・底屈ともに臥位よりも座位で有意に高い筋活動を示した。 (2)膝関節角度と筋活動との関連:座位・臥位ともに膝関節角度60°の時に最大筋力を発揮し、これには大腿四頭筋の筋活動が強く関与していることが示唆された。 3)循環動態への影響 最大随意筋力の30%、60%、90%の運動強度での等尺性下肢伸展運動時と、その後10分間の血圧・心拍数を測定した。今後、等張性運動についても同様のデータを収集し、運動様式と循環動態の変動について比較検討する予定である。 現在、定荷重ばねを用いて、等張性運動ができるように装置を改良中である。 来年度は、臨床導入前の安全性を検討するため、下肢血流量、酸素摂取量を測定しながら、等張性運動時の呼吸循環動態をさらに詳細に検証する予定である。
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