本研究の対象者の選定は、病院のエンブリオロジストへ依頼した。そして「体外受精を2回以上受けている出産経験のない既婚女性」という条件に合致した女性を選定し、研究の趣旨を口頭と文章で説明し協力の依頼をした。面接は主に滋賀県内で、対象者宅や通院している病院の最寄り駅付近の喫茶店などで実施した。研究者が調査に出向くことのできる期間で承諾の得られた研究参加者は合計10名で、年齢は25〜41歳、平均34.6歳であった。インタビューは一人当たり1回で、所要時間は59分〜135分、平均91.4分であった。 音声データは全て逐語録に起し研究資料とした。分析は解釈の信頼性・妥当性を保つために修士号を持ち、質的研究を行ったことのある者2名と2回ミーティングを持ち、結果を照合している。分析枠組は宮本昌巳の意思決定プロセスと構成要素に基づき、特に「治療継続をどのように決めたか」に注目した。「価値判断」は規範と欲求の対概念で説明でき、不妊女性が抱く"不妊治療をすることの意義"の背景にある価値観に由来する。そして体外受精を継続する意思決定において、「排卵誘発の注射が痛いので自分はやりたくない」という思いを持ちつつも、「夫や親が子どもを欲しがっているから」と治療を受けることを自分に納得させ、意思決定を下している場面があった。一方、「事実判断」は不妊原因の理解や治療に関する情報量に基づいた将来予測からなり、どの事例においても「体外受精を受けなければ子どもができない」という事実判断のもとに、体外受精を継続する意思決定に結びついていたことが分かった。
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