研究課題
われわれの研究グループでは、これまで平成10年度、平成14年度の二時点にわたり大学における学術研究環境の現状や新しい動向などについて定量的な調査を実施してきた。第三回目にあたる今次の調査研究では、時系列の変化を踏まえた上で、重点化あるいは競争化などの学術研究資源の配分方式の変化が現場に及ぼしている影響を明らかにすること、および「フローの増加によるストックの侵食を通じた衰退の危機」という問題状況を定量的に明らかにすることなどを目的として、調査設計を行った。主要な分析結果の概要は、以下の通りである。1.大規模な研究体制は、ほとんどの場合、高額の政府競争資金や科研費によって財政的に支えられている。矩期間のうちに評価にさらされる不安定な研究体制が多くを占めるなかで、少数ながら、所属機関からの経常費に支えられた安定性の高い大規模研究が、大学共同利用機関法人を中心として実施されている。2.学術研究活動のボーダレス化という傾向は、さらに強まっていることが明らかになった。唯一の例外はポスドクの進路であり、依然として研究者養成過程として位置づけられている。3.研究時間の不足という問題は、さらに深刻化していることが明らかになった。特に理工系では、その他の職務に費やされる時間が長くなっている。4.プロジェクト研究費を受け入れるための研究基盤が整備されているものは、全体の1/4に満たない少数派となっている。ただし、現在恵まれた研究体制のもとで高い生産性を上げているグループに限定した場合、およそ半数は研究基盤が整備されていると回答している。