研究課題/領域番号 |
15F14748
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
大橋 隆哉 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (70183027)
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研究分担者 |
AXELSSON MAGNUS 首都大学東京, 理工学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | X線γ線天文学 / 宇宙物理 / 相対論・重力 / ブラックホール / 降着円盤 / X線連星 / QPO |
研究実績の概要 |
昨年度の研究では、観測面ではブラックホール天体からの硬X線放射に焦点をあてて研究を進め論文として出版した。特に連星X線源とガンマ線バーストが対象である。衛星から得られたデータを解析し解釈するほかに、「ひとみ」衛星の観測装置のデータを解析するツールの試験も行った。このために、SXSチームに加えてサイエンスオペレーションチームへも参加した。このチームでは、マイクロカロリメータSXSの地上試験データを対象とし、「ひとみ」のデータ解析ソフトウェアを用いて実際に解析が行えるかどうかを一連の流れに沿って試験し、問題点がどこにあるのかをはっきりさせることを目的として作業した。実際の作業としてはJAXA宇宙研や理研のメンバーと協力して、データ解析ソフトウェアの試験を進めた。また、「ひとみ」の軌道上キャリブレーションを議論するチームにも参加し、タイミング情報のキャリブレーションを行うための観測計画の立案などを行った。衛星のトラブルのために観測が十分実施できていないが、得られているデータをもとに時刻精度の確認を行っていく。 この研究に関連して、SXSの試験データをもとに、XSPECで用いる新しいエネルギースペクトルのモデルに関する論文を執筆した。この論文は、カウントレートが低い時に用いる統計として、これまでのガウス分布を仮定したカイ二乗検定ではなく、ポアソン分布をもとにしたmaximum likelihoodのほうが正しい結果を与えることを示したものである。これはSXS検出器で、エネルギースペクトルの観測から、輝線をどこまで正確に検出できるかを正しく評価したものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2015年度には2本の論文を完成させた。これらはブラックホールへのガス降着について重要な問題を明らかにするものである。XRT J1550-564の1998年のアウトバースト時に得られた、ASCA, RXTE, OSSEの同時観測データを再解析し、0.7 - 1000 keVという広いエネルギー範囲の変化を調べた。511 keVの対消滅線がないことから、最大ローレンツファクターは10以下となった。また、データに対しハイブリッド分布を取り入れたモデルをフィットすることにより、熱的および非熱的な電子の分布のバランスを決めることができた。このモデルを、速く時間変動するエネルギースペクトルと比較したところ、熱的な電子だけが変動することがわかった。したがって、非熱的な電子は時間変動する降着流とは異なる場所で発生していると考えなければならない。さらに、ブラックホールシステムGX 339-4を対象として、低周波の準周期変動 (QPO)とその高調波のエネルギー依存性をについて調べた。その結果、時間平均されたエネルギースペクトルには少なくとも2つの異なる成分が存在していることがわかった。光学的に厚い低温の成分が存在し、これがQPOの高調波を作っていることが明らかになった。QPOそのものは、コンプトン化された硬い成分と考えられる。連星ブラックホール天体では非一様なコンプトン化が起きていることを示す結果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後もブラックホール天体を対象として、ガス降着現象をエネルギースペクトルと時間変動の両面から研究していく。「ひとみ」衛星のデータが使えるかどうかが現時点では不明であるので、当面は「すざく」などのアーカイブデータを中心に解析を行う。首都大X線天文グループの山田氏と協力し、これまでに蓄積された大量のブラックホール天体観測データを、どう解析し成果につなげていくかを議論している。特に、「すざく」とRXTE衛星との同時観測が行われた天体に焦点を当て、時間変動とエネルギースペクトルの両面における感度をできる限り上げる計画である。RXTEはタイミング観測能力が高いので、どのような変動成分からなっているかを調べたり、特定の成分のデータを取り出すことができる。一方、「すざく」は0.5 - 500 keVという広いエネルギー範囲に感度があり、CCD検出器のエネルギー分解能も高いので、詳しいエネルギースペクトルの解析に適している。対象となる天体はCyg X-1をはじめとして極めて多くある。データ解析ではブラックホール天体に興味を持つ首都大学東京の大学院生にも参加してもらい、高エネルギー天文学の教育を補助するとともに学生の国際化にも一定の貢献を行うつもりである。 ブラックホール天体のデータ解析の研究を進める一方、私はこれまでもX線ガンマ線の偏光観測の気球実験 (PoGOLite)にも参加してきた。これを生かして、将来のハードウェアの開発における国際協力についても議論を始めており、日本とスウェーデンの今後長期間にわたる協力につながるよう考えていきたい。
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