研究課題/領域番号 |
15F15021
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
筒井 泉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (10262106)
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研究分担者 |
MODAK SUJOY 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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キーワード | ブラックホール / エンタングルメント / エントロピー / ホログラフィー / 情報パラドックス問題 |
研究実績の概要 |
平成27年度では、当初の研究実施計画に従って、先ず一般相対論と量子力学の融合の上で最も鍵となると考えられているブラックホール情報パラドックス問題を考察した。具体的には、4次元の現実的なブラックホールに対して新しい見方を提供するため、相対論的な連続自発的局所化(測定による状態収縮を量子論的物理過程を通して実現するシナリオに基づく)理論を適用したモデルを構築した。これは従来の連続自発的局所化モデルが非相対論的なものであった欠点を解消し、本来の重力理論のモデルとして要請される相対論的対称性を担保したものであり、情報パラドックス問題へのアプローチとして連続自発的局所化が現実的なシナリオを提供するものであることを示した。
これと平行して、AdS時空の境界時空での共形場の理論におけるエンタングルメントエントロピーの持つホログラフィックな性質を根底から理解するために、情報及びエントロピー概念の基礎を再検討する作業を行った。具体的には、情報理論、確率論、物理学といった情報が関与する研究分野全般にわたって用いられる情報概念を整理し、その中で場の量子論及び重力理論における共通した言語としての情報及びエントロピー概念の可能な形式を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブラックホール情報パラドックス問題を考察するための相対論的連続自発的局所化モデルを構築する部分は、当初の予定通りに行うことができた。また、次年度以降の課題である、AdS時空の境界時空での共形場の理論におけるエンタングルメントエントロピーの持つホログラフィックな性質の研究のための準備として開始した、情報及びエントロピー概念の基礎の再検討作業もほぼ順調に推移しており、その結果に基づいて、28年度においては具体的なモデル計算等を実施し、計画通り、上記のホログラフィックな性質の物理的背景を明らかにする研究に着手する見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず系の量子状態のエンタングルメントの精密な評価を行うために、従来、ブラックホール等の量子論的議論に用いられたエンタングルメントエントロピーを含む、より一般的なエンタングルメント測度を考慮し、それらが一般相対論的な場の量子論の枠組みで有効に利用できるかを精査したい。この作業を通して、利用可能なエンタングルメント測度の範疇を拡大し、情報エントロピー概念の基盤の整理と併せて、本研究の基礎を固めたいと考えている。
一方、新たな量子物理量として近年注目を集めている「弱値」に基づく情報概念の新しい見方をも援用することで、上記のホログラフィックな性質の物理的背景の探索を、より広い観点から押し進めたい。受入研究者は最近、「弱値」に基づく量子推定誤差を含む新しい不確定性関係の提示に成功しており、この成果は確率的な基盤を共有する情報エントロピーにも、大いに応用が見込まれる。
これらの目的の達成のため、国の内外の研究会等で専門家との意見交換を緊密に行い、またモデルを用いた数値計算を通してその有効性を確認する予定にしている。
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