研究課題/領域番号 |
15F15025
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (50361837)
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研究分担者 |
ALI SAFDAR 電気通信大学, 学内共同利用施設等, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-10-09 – 2018-03-31
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キーワード | 多価イオン / 極端紫外スペクトル / 太陽コロナ / 分光診断 / 衝突輻射モデル / 共鳴発光過程 / 密度依存 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、太陽コロナに代表される天体高温プラズマの分光診断において必要とされている多価イオンの分光実験データを、実験室の良く定義されたプラズマである電子ビームイオントラップを用いて測定・提供することが目的である。 平成27年度は、太陽コロナにおける主要構成イオンである鉄多価イオンの分光測定を小型電子ビームイオントラップを用いて行った。鉄多価イオンの中でも、極端紫外域の分光観測による密度診断おいて重要となる10+から14+のイオンにおいて、密度に対して敏感な依存性を持つ発光線の強度を測定した。同時に、電子ビームの空間的広がりと、電子ビームとトラップイオンの空間的重なりを実測することにより、イオンが曝されている実効的な電子密度を実験的に決定した。これまでの研究では、何らかの理論計算に規格化することで間接的に電子密度を得ていたが、本研究では理論計算に一切頼ることなく電子密度を実測した上で、発光線強度比の密度依存性を得ることに成功した。その結果、10+から13+の発光線強度比に関しては、衝突輻射モデルによる計算と良い一致が見られたが、14+の発光線強度に関してのみ、モデル計算との著しい不一致が確認された。その原因の可能性の一つとして、エネルギー依存に着目した。一般にエネルギー依存は大きくないとされているが、実験を行ったエネルギー領域においては共鳴の寄与があることが予想されたため、共鳴過程観測のためのエネルギー掃引システムを立ち上げ測定を行った。その結果、二電子性共鳴捕獲からの自動電離を介した共鳴励起過程、およびそれに伴う発光過程を観測することに成功した。これらの成果を物理学会などで発表した。 より高価数の鉄多価イオンについて実験を行うためには、高エネルギー型電子ビームイオントラップを用いる必要があるが、現在真空トラブルで使用できない状態にある。来年度以降の実験に向けてその修復作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度得られた成果のうち、電子密度依存性の測定においては、当初計画していた通り、複数の鉄多価イオンにおいて実効的電子密度を実測し、電子密度依存性を測定することで、衝突輻射モデルの検証を行うことに成功した。 加えて、当初計画では来年度以降に行う予定であったエネルギー依存測定、共鳴発光過程の観測を、そのシステム立ち上げから行い、観測まで成功することができた。極端紫外域の高分解能スペクトルにおいて、このような共鳴過程が観測されたことは過去にほとんどなく、困難な実験である。それを初年度から成功させたことから、当初の計画よりも大幅に進展しているということが言える。 高エネルギー電子ビームイオントラップの復旧作業は、当初予期していなかったことがいくつかあったため、計画どおり順調であるとは必ずしも言えないが、大よそ想定の範囲であり、着実に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
27年度には当初計画より大幅に進展した成果が得られたため、それらの成果をパリにて開催される国際会議Atomic Processes in Plasmas (APiP2016)、ポーランドにおいて開催される国際会議International Conferences on the Physics of Highly Charged Ions (HCI2016)において発表する。 27年度に行った密度依存測定、共鳴発光測定を他の価数の鉄多価イオンについて継続して行う他、やはり天文プラズマにおける主要構成元素である硫黄の多価イオンについても測定を広げ、系統的な理解を得る。
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