研究課題/領域番号 |
15F15028
|
研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
佐々木 秀孝 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 室長 (00354506)
|
研究分担者 |
CRUZ FAYE ABIGAIL 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2015-10-09 – 2017-03-31
|
キーワード | 地球温暖化 / 地域気候モデル / ダウンスケーリング |
研究実績の概要 |
東南アジア域は、台風やモンスーンによる影響を受けやすく、激しい雨が降ることにより洪水などの被害をもたらすため、地球温暖化に対して最も脆弱な地域であると思われる。この地域では、地球温暖化による将来予測は主に全球モデル(GCM)を用いて行われているが、正確な温暖化による影響評価を行い、適応策を立てるためにはGCMでは十分な解像度がない。そこで、本研究ではGCMの計算結果を地域気候モデルによって力学的にダウンスケーリングを行い、東南アジア域における地球温暖化による将来気候変化の詳細な予測を行う。さらには、条件を変えた複数の実験を行うことにより、温暖化による将来予測の不確実性の幅を見積もる。実験結果は、世界気候研究計画(WCRP)で行われている、地域気候モデルによるダウンスケーリング国際比較実験(CORDEX)で発表し、東南アジア域の温暖化による将来気候変化予測研究に貢献する。 当該年度では、解析値を境界条件とした気象研究所非静力学地域気候モデル(NHRCM)による数値実験を行い、その実験結果を様々な観測データと比較する事により、フィリピン付近でのNHRCMの性能評価を行った。現在気候の再現性が悪い部分については、その原因を探り、改善方法の検討を行った。その結果、この地域に最適な物理過程を選択することができ、NHRCMによる現在気候の再現性向上に寄与することができた。次に、気象研究所全球モデルによる地球温暖化による気候変化予測実験の結果をダウンスケールして、東南アジア域における詳細な将来気候変化予測実験をおこなった。さらに、その結果についてバイアス補正や不確実性の評価を行い、予測結果をより精度が高く付加価値のあるものへと仕上げることができた。その結果は、今後様々な国際会議で発表すると共に、論文として投稿する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた解析値を境界条件としたフィリピン付近での気象研究所非静力学地域気候モデル(NHRCM)による現在気候再現実験を予定通り終了することができた。この実験は、様々な物理過程の条件を変えて行い、その結果を観測された気象データとの比較を行う事により、この領域における最適な物理過程を選び出す事を目的として行われた。この実験を行う事により、NHRCMの現在気候の再現性を向上させることができた。また、水平解像度が60kmの気象研究所全球モデルを用いた温暖化よる将来気候変化予測実験の結果を境界条件とし、東南アジア域においてNHRCMを用いた水平解像度25kmの気候変化予測実験も、当初の計画通り終了することができた。その予測結果は、バイアス補正や不確実性の評価を通して、影響評価の研究グループが利用しやすいよう、情報としてより付加価値の高いものへと仕上げることができた。また、現在、さらに高い解像度(5km)の実験を行う準備を進めている。これにより、フィリピン域の複雑な地形に影響を受ける小さなスケールの気候現象を再現する事が可能になり、温暖化による気候変化への適応策策定に貢献する事が期待される。これらの事を鑑み、研究は概ね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度に行った、水平分解能60kmの全球モデルを用いた地球温暖化による将来気候変化予測実験の結果を、気象研究所非静力学地域気候モデル(NHRCM)により東南アジア域において、水平分解能25kmまでダウンスケールした温暖化予測実験の結果を詳しく解析し、その結果を5月にスウェーデンのストックホルムで開催される地域気候モデルによるダウンスケーリング国際比較実験(CORDEX)のワークショップ、及び6月にベトナムハノイで開催されるCORDEX-SEA(東南アジア)で、外国人特別研究員が発表を行う。この実験結果は各国で行われた実験結果と比較され、各モデルの長所・短所など様々な特徴が分かるため、今後のNHRCMの改善に役立てることができ、さらには、地球温暖化による気候変動予測の不確実性の原因の一つを評価するのにも寄与する。 さらに高解像度(5km)のNHRCMによる温暖化気候変化予測実験を行い、フィリピン域の複雑な地形に影響を受ける小さなスケールの気候現象の将来変化予測を試みる。また、複数の温室効果ガスの代表的濃度経路(RCP)シナリオによる温暖化予測実験を行い、将来気候変化予測の不確実性の幅を見積もる。それらの結果は、影響評価研究グループが使いやすいように、目的に応じたバイアス補正の手法を考案し、温暖化による気候変動予測データとして付加価値の高いデータを作成する。そして、これまでの研究結果をまとめ、学会誌等へ投稿する。これらの計算結果はハードディスクに保存し、外国人特別研究員の出身組織であるフィリピンのマニラ観測所に送られ、さらに詳しい解析を行い温暖化に対する影響評価研究、さらには温暖化に対する緩和策策定に役立てる。
|