研究課題/領域番号 |
15F15041
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝治 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (80154540)
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研究分担者 |
KAR CHIRANTAN 慶應義塾大学, 理工学部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 蛍光イメージング / イメージングプローブ |
研究実績の概要 |
BODIPY誘導体蛍光色素について、まず2分子または3分子並列につなぐ構造を検討した。BODIPYの2位炭素どうしを1つ繋ぐごとに40ナノメートル程度の最大蛍光波長の長波長シフトが観察されたが、生体サンプルを扱う際の水系溶媒中では蛍光が低下するため、生体イメージング用の蛍光分子としては適さないと判断した。そこで、水溶性が十分なシアニン系の長共役系色素を基本骨格とする蛍光分子を合成した。その結果、合成したシアニン系蛍光分子は、695ナノメートルの波長で光励起すると、最大蛍光波長が780ナノメートルを示すことが分かり、目的とする近赤外蛍光分子骨格が合成できた。 このシアニン系長共役系蛍光色素分子骨格にジアミン、ジピリジン、ジアミドなどの金属イオン配位部位を導入し、さまざまな金属イオン存在下での紫外・可視吸収スペクトルと蛍光スペクトルを測定した。また、金属イオン配位部位の構造には、エネルギー移動で蛍光応答する形の分子、イオン配位で配位部位が切り出されて蛍光応答する形の分子、スピロピラン型で蛍光応答する形の分子の異なる3種類の構造を検討したところ、スピロピラン型の分子が最も蛍光のOFF/ON応答に優れており、イオンへの応答速度も速いことが分かった。蛍光OFF/ON応答が最も優れた分子においては、水銀イオン(Hg2+)の存在で蛍光増加が定量的に大きくなるものであった。この分子は、Hg2+がないときには、スピロピランは閉環しているが、Hg2+が存在するとスピロピランの開環が起こり、蛍光がONになる。Hg2+濃度応答性も優れており、新たな機能性近赤外蛍光分子が完成した。今後は、このスピロピラン型イオン応答性蛍光分子のさらなる長波長化とともに、Hg2+にも選択的に応答する鉄・銅応答性蛍光分子の設計と合成を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体応用に適する高感度金属イオン蛍光分子プローブの開発を目指して、この1年は相当の時間を掛けて基本蛍光分子骨格およびそれに付与するイオン応答部位、さらにはイオン配位選択性と蛍光応答性の合成と機能評価の実験を行ってきた。この努力は、着実に成果に繋がっている。まず、高感度金属イオン蛍光分子プローブの分子設計ポイントとして、1)生体サンプル測定のための1)十分な水溶性、2)十分な金属イオン選択性、3)生体深部からのイメージングに適する高輝度近赤外蛍光(650-900ナノメートル)発光である。これらの条件を満足する分子を設計するうえでの基本分子骨格には、受け入れ研究室で開発されたボロンジピロメテン(BODIPY)をヘテロ環で拡張したBODIPY誘導体を候補とした。いくつかの誘導体を合成したが、どれも水系溶媒中では蛍光が低下し、生体サンプルには適さないと判断した。そこで、長共役系のシアニン系の蛍光色素骨格を新たに分析設計し、いくつかの分子が合成できた。その1つは、最大吸光波長が695ナノメートルで最大蛍光波長が780ナノメートルの蛍光発光を示し、水系溶媒中でも蛍光輝度の減少は少ない。このことより、目的とする近赤外蛍光分子骨格は合成された。 次にこのシアニン系蛍光色素分子骨格にさまざまな金属イオン配位部位を導入し、金属イオンを加えて吸収・蛍光スペクトルをすべての合成分子で測定した。そのうち、Hg2+配位で配位部位が切り出されて蛍光応答するスピロピラン型蛍光分子が最良の特性を示した。この蛍光プローブは、Hg2+が存在すると蛍光がONになる。Hg2+蛍光応答性も優れており、高く評価出来る。この成果としては国際論文に投稿を予定している。今後は、このスピロピラン型イオン応答性蛍光分子をさらに検討して、鉄や銅などの生体中のイオンに応答する蛍光プローブを完成させる計画である。
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今後の研究の推進方策 |
生体内のイオン(特に鉄や銅イオン)の挙動解析のための蛍光イメージング分子開発が目的であり、650ナノメートル以上の高輝度近赤外蛍光発光を示す分子骨格を多々合成したが、生体サンプルに適する水系溶媒では、シアニン分子骨格が最良であった。このため、今後はアニオン性をもち、水に溶解性の高い長共役系シアニン分子を多数合成し、高輝度の近赤外蛍光発光を生ずる分子骨格の構造最適化を引き続き行う。 シアニン分子の蛍光のOff/Onは通常光誘起電子移動(PeT)に基づくものが多い。である。しかしながら、PeTメカニズムによってシアニン蛍光を最適化する際には、pHの影響を受ける。特にpHが中性や弱酸性の生体サンプルに最適なPeT型イオン応答分子を設計するには、蛍光分子骨格にハロゲンのような電子求引性部位の導入が有効であるが、pH応答は改善しても蛍光強度は減少酢する場合が多い。そのため、蛍光応答にはスピロピラン型として、イオン配位による配位部位から蛍光骨格への分子内電荷移動(ICT)により、配位部位だけが速やかに切り出される分子構造を探求する。現在までのところ、Hg2+の配位で配位部位が切り出されて、蛍光がOnになる分子の合成に成功したので、さまざまなイオンに対して適応させるには、ICTの電荷移動効率を高めるような分子内電荷のプッシュ・プル構造を電子求引性基と電子供与基の組み合わせによって達成できるのではないかと考えている。これら電子求引性基と電子供与基の蛍光分子への導入は、長共役系に直接関係する部位に入れる必要があり、分子設計のうえでもある程度は考慮できるが、分子内の導入位置および導入基の構造は試行錯誤する必要がある。これらはpH依存性や水系での蛍光強度およびイオン応答特性に関係するためである。幸いHg2+応答性近赤外蛍光分子はできたので、他のイオンも実験と検討を十分すれば完成できると考えている。
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