昨年までに選択的金属イオンプローブ設計での有用性を見出したシアニン基づくスピロ環形の金属イオンプローブを検討した。本年度は特に近年環境中の汚染金属が生体に与える影響が問題視されている水銀やカドミウムイオンの検出に着目し、生体内中性域pHにおいてHg2+およびCd2+(またはZn2+イオン)をそれぞれ選択的に検出できる2つの新たな化合物IR-NCSとIR-PYRを設計、合成した。これら2種類の分子プローブの蛍光と吸光スペクトル変化は近赤外線域にあり、生体深部からの光検出を可能とした。シアニン系誘導体色素IR-NCSの場合には、分子内のチオカルバジドへの不可逆的なHg2+配位から始まるスピロ環形成を経て、分子骨格である色素部位のπ電子共役系スピロラクタムの解裂をHg2+イオンが引き起こし、オキサジアゾールを形成すること。このときにIR-NCSのチオセミカルバジドが容易に変化して蛍光が発することにより、高感度にHg2+イオンだけを蛍光検出できる。一方、IR-PYRの場合には、電子ドナーとなるイオン配位部位としてピリジン部位とイミンおよびケトン化合物のO原子から複数のN原子を含む形の金属結合サイトをもつ色素をプローブ分子設計の基本とした。このような複数のドナー原子を構成している金属結合サイトは、Cu2+、Zn2+、Cd2+などの遷移金属イオンに配位し、それによって蛍光が変化する形とした。IR-NCSとIR-PYRともに合成に成功し、得られた1H NMR、13C NMRおよびMS-ESIは、目的物と合致していた。細胞内水銀イメージングがIR-NCSをプローブとして用いた場合の蛍光強度変化によって行われうるかどうかを調べた。IR-NCSプローブを用いたHg2+の細胞内濃度分布を共焦点顕微鏡の観察により行ったところ、期待通りの蛍光応答がみられ、Hg2+イオンイメージングが可能であった。
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