研究実績の概要 |
はじめにゼニゴケの重金属に対する耐性度合いと体内での蓄積様式の評価を行ったところ、Cd, Cu, PbおよびZnの植物体内での蓄積分布様式と耐性度合いはそれぞれ異なることが明らかになった。Cdは植物体内における移動性が高く、植物のより若い領域(細胞分裂を盛んに行う部位)に容易に移動し大量に蓄積されており、その分布特性により強い毒性を示した。一方、Pbは蓄積量が低く、また植物体内の移動も起こりにくく、毒性も最も低かったことから、ゼニゴケはPbに対して耐性をもっていることがわかった。 CuおよびZn処理はCdとPbの中間的な応答を示した。以上の解析から、重金属に対する耐性とその金属の蓄積量および体内での移動度には負の相関があることがわかった。換言すれば、ゼニゴケは体内から細胞外に金属を排出することで、吸収した重金属の体内での移動を避け、特に若く細胞分裂を繰り返す組織への蓄積を抑えることで毒性の効果を最小限に抑えていると考えられた。 次に重金属の中で最も高い毒性を示したCdについて、その毒性に対する応答機構のしくみを知るためにCdに対する応答様式のトランスクリプトーム解析を行った。その結果、Cd処理により529個の遺伝子の発現が有意に変動することを同定した。 オントロジー解析により、Cdストレスは酸化的代謝に関わる遺伝子や輸送に関連する遺伝子の発現に影響を及ぼしていた。また、興味深いことに、このストレスはジャスモン酸とサリチル酸の生合成経路に関わるいくつかの遺伝子の発現に対し、強い影響を与えていた。この生物学的な意義について明確にすることはできなかったが、これらのホルモンはゼニゴケのCdストレス応答におけるシグナル伝達の情報分子として重要な役割を果たしているのかもしれない。また、抗酸化防御に関与するフラボノイドの合成に関わる遺伝子群が正に制御されていることが見出された。
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